目次

  1. 1. 路線価は今年1月1日の評価、コロナ禍の影響は反映されていない
  2. 2. コロナ禍の影響を反映して「補正率」導入の可能性も
  3. 3. 相続税は「更正の請求」と「期限延長」で対処を
  4. 4. 生前贈与は来年以降も見据え慎重に対応を

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路線価とは道路に面した標準的な宅地の1㎡あたりの評価額のことです。この路線価で相続した自宅や事業用の土地の評価額が変われば、相続税額や贈与税額も左右されます。路線価は土地取引の指標となる「公示地価」を参考に決められると言われます。しかし、今回発表された路線価はこの5年で最高となり、コロナ禍の影響が反映されていないようです。不動産を持つ人は「路線価にコロナ禍の影響を反映してほしい」と言いたくなるでしょう。

これに関し、福井さんは「路線価の決め方にはルールがあり、コロナ禍の影響は現時点では反映されていない」といいます。「路線価は、その年の1月1日が評価時点となります。発表が毎年夏なので、今回のコロナ禍のような特殊な事情があると『影響が反映されているはず』と思いがちですが、今年1月1日時点ではコロナ禍はまだ生じていないので路線価に反映されないのです」。

「税金と同じように路線価の決め方にもルールがある」というのは分かります。しかし、東京や大阪のような一部地域では、緊急事態宣言がなかなか解除されず、仕事や生活に支障が出ました。コロナ禍で収入減でもルールだから高い税金を払わないといけないとはいえ、負担が大きくて素直に受け入れる気持ちになれません。どうにもならないのでしょうか。福井さんは過去の事例を紹介しつつ、補正率の導入で路線価が低くなる可能性を指摘しました。

「2019年の台風第19号で大きな被害を受けた地域がありました。このとき、被害を受けた一部地域に対して、国税庁から路線価の調整率表が発表されました。地域ごとに『調整率0.85』などと調整率が出て、路線価に乗じることで、対象地域の路線価を下げる措置がとられました。

令和元年台風第19号調整率表(国税庁HPより)

今回のコロナ禍による経済の低迷は日本全体のものです。そのため、自然災害と異なり、一部の地域だけでなく全国的に補正率が導入される可能性があります。ただ、それでも地域差があります。北海道や沖縄のようにインバウンド需要などによって、路線価が上がり続けている地域などは他の地域よりも大きな補正率が入るかもしれません」。

実際、国税庁も路線価公表の際、コロナ禍の影響を加味した補正率の導入を検討していることを明らかにしました。補正率が導入される場合、秋頃に発表される予定ですが正確な公表時期はわかりません。国税庁ウェブサイトのトップページをこまめに確認した方がよいようです。また、相談できる税理士にこまめに確認・相談するのも対策になるでしょう。

宅地の持ち主が最近亡くなり、これから相続税の申告を予定している人もいれば、すでに今年発生した相続について申告・納税も済ませた人もいるでしょう。今年申告をする人が相続税で損しないためは、どうしたらいいのでしょうか。福井さんは「慌てる必要はなく、落ち着いて対応することです」と前置きしたうえで、具体的な対策を教えてくださいました。

「今年生じた相続に関してすでに申告・納税を行った人は、路線価の補正率が発表された場合、申告期限前であれば『訂正申告』を行い、申告期限後であれば『更正の請求』を行うとよいでしょう。補正率の適用対象の申告についても、台風第19号の際と同様に申告期限が延長される可能性もあります。また、コロナ禍の影響により、期限までに相続税の申告が困難な方々については、『個別指定による期限延長手続き』を適用することで、仮に申告期限と補正率の発表の時期が重なりそうであっても、申告・納税を遅らせることができますので落ち着いて計算できます(ただし、コロナ禍の影響が終息すれば、指定された日をもって延長は認められなくなりますので注意してください)」。

「更正の請求」とは、税金を多く払いすぎた申告をやり直すことを言います。更正の請求を行えば、調整率を加味していない分多く払い過ぎた相続税が還付されるのです。また、個別指定による期限延長手続きを行えば、余計な税金を払うことなく申告・納税を先延ばしすることができます。手続き自体も難しくありません。

コロナ禍の影響が完全終息するまでは、冷静に状況を見て対処することがもっとも損がない方法だと言えそうです。

【参考】国税庁「相続税の申告・納付期限の個別指定による期限延長手続に関するFAQ」

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宅地の割合が多い世帯の中には、生前贈与を検討しているところもあるでしょう。地価上昇を見込んで「値上がりする前に収益物件を子どもに引き継ごう」と考えていたかもしれません。しかしコロナ禍でインバウンド消費は消え、日本経済は一気に冷え込みました。今後の土地取引の動向が見えない中、それでも生前贈与はしておいた方がよいのでしょうか。福井さんは「慎重になった方がいい」とした上で、生前贈与について次のように述べました。

「来年以降の路線価の動向はまだ分かりませんし、コロナ禍の影響もいつまで続くかも読めません。ただ、現実にコロナ禍で土地取引が減少すれば来年の路線価が下がる可能性があります。今年、生前贈与については少し様子を見た方がよいでしょう」。

生前贈与した宅地にかかる贈与税を左右するのは贈与時の宅地の路線価評価額です。そのため、路線価の高い年に贈与すると、高い贈与税を納めることになります。逆に路線価が低いときに贈与をすれば、その分贈与税を節税できるのです。

しかし福井さんは節税の考え方について「生前贈与はバランスが大事」として、生前贈与の考え方を次のように示しました。

「収益物件の中には賃料収入が安定しているものもあります。そのような物件で高額なものは相続時精算課税制度を適用して生前贈与すれば、贈与後の賃料収入で増加する資金は受贈者に帰属させることができます。路線価が低くなるタイミングを待つよりも、相続対策として早く子に移す方が得策と考えるならば、それも一つの選択肢と言えます」。

(記事は2020年7月1日時点の情報に基づいています)

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