目次

  1. 1. 信託監督人の具体的な役割
    1. 1-1. 受託者が不動産を勝手に処分しないための「歯止め」
  2. 2. 監督人は受益者のために受託者に「伴走」する

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「信託監督人」の権限や監督方法は、原則自由に決めることができます(信託法第132条第1項但書)。

おおむね考えられる日常業務としては、

(1)後見監督人の業務にならい3ヵ月から半年に1度くらいのペースで、受託者が管理する信託口口座等の通帳を開示してもらうこと、

(2)大口の支出や使途不明金がないか、毎月の賃料収入がきちんと入金・管理されているか、また受託者が支払った請求書や領収書が適正かなどを確認すること、などがあげられます。

また、

(3)受益者(一般的には老親)に対して、定期又は不定期の財産給付(毎月の生活費等の手渡し等)がなされているか、受益者に困りごとや不満、不都合なことが起きていないかのチェックも重要です。

それ以外では、信託不動産の売却・購入や建物解体・建替え等の重要な財産を処分する際に、信託監督人の事前の承諾を要する旨の定めを置くことも多いです。

信託監督人の同意を得ないで行った法律行為・取引自体を法的に無効にすることはできませんが、それでも、受益者や家族が望まない財産の勝手な処分を抑止する一定の効果は見込めます。

たとえば、信託不動産を受託者が売却する場合に、信託契約書において信託監督人の事前の承諾が無ければ売却できない旨の規定を置いておくと、不動産登記簿の信託目録に信託監督人の住所・氏名と合わせ、信託監督人の承諾が必要な旨が記載されます。

よって、仲介する不動産業者や売買による所有権移転登記を担う司法書士も事前に認識できることになります。

仮に信託監督人の承諾が必要なことに気付かずに売却手続きを進めたとしても、所有権移転登記手続きの必要書類(法務局に提出する添付書類)として信託監督人の印鑑証明書と実印を押印した承諾書が必要になりますので、登記手続きができないことになります。

信託監督人には、「善管注意義務」と「誠実公平義務」があると筆者は解説します。
信託監督人の義務

信託監督人は、受託者が信託の目的や信託契約書の規定に違反し、受益者の不利益になることをしている場合には、注意勧告し是正を促します。

それでも改善されなければ、受益者と相談のうえ(受益者が相談できる健康状態でなければ監督人が単独で)受託者を解任できる権限を与えておくことも可能です。

このように、高齢の受益者本人が将来的に受託者に対し監視・監督の目を光らせることができなくなる事態に備え、客観的かつ冷静に受益者の利益を守るために、信託監督人にどんな権限を持たせるかを検討することは家族信託の設計上とても重要でしょう。

ただし、実際には受託者と信託監督人は対立するイメージではありません。

財産管理や不動産、法律、税務に関する身近な相談役として、常に受益者や受益者を含めた家族のために最適な方策を選択・実行できるように、受益者や受託者に寄り添い伴走するのが信託監督人としての理想的な関わり方とも言えます。

前回は、信託の管理運営をチェックする「信託監督人」について考えました。

引き続きこの連載では、家族信託に必要な知識やトラブル予防策を読み解いていきます。

(記事は2020年6月1日時点の情報に基づいています)

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