目次

  1. 1. 不動産が「ありがた迷惑」になる場合も
  2. 2. 親が元気なうちに、家族で話し合いを

相続に備える「家族会議」で話し合うべき三つの議題があります。前回は、一つ目の「老親の保有資産と収支状況」をご紹介しました。老親の現状についての情報が、家族内で共有された段階で、二つ目の議題「実現したい未来と備えをしないリスクを洗い出す」に入ります。これは、言うなれば「プラス」と「マイナス」の観点から見た検証です。

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まずは「プラス」の観点、つまり親本人に今後の生活についての希望や想いを聞くプロセスからご説明します。今後、親世代が要介護状態になった場合、本人の希望はどうでしょうか。

ヘルパーを活用してでもできる限り自宅で過ごしたいのか、それとも毎食バランスのとれた食事がとれる高齢者施設に早い段階で入所したいのか、というのは重要な意思表示です。

また、保有資産をどのように管理・活用・処分してほしいのかも重要です。例えば、「介護費用がかさみ将来的に預貯金が減ってきたら、どの土地を優先的に換価処分すべきか」「アパートが老朽化したら、建替えも視野に入れて管理してほしい」「先祖代々引き継いでいる土地は売らずに、子孫の代まで守り繋いでほしい」など、具体的な要望があれば、家族で共有しましょう。

一方、子の希望をきちんと親に伝えることも必要です。親が良かれと思って遺す財産が、子世代にとって“ありがた迷惑”になっては、資産承継の価値が半減します。親の独りよがりにならず、感謝される遺し方をするためには、あらかじめ子の希望を親が理解することも重要です。

例えば、親世代は子に資産を不動産として遺すのがベストだと思っています。しかし、子からみれば、管理の手間とコストがかかる不動産は、親の世代でなるべく整理・処分をして金融資産に換えておいてほしいというケースは少なくありません。

“土地神話”が崩壊し、不動産を持ち続けることがリスク(俗に“負動産”と言います)と言われる時代です。遺し方も以前とは変わってきていることを親世代も認識して、柔軟な価値観を持ちたいものです。

次に、このまま何の相続対策も講じなかった場合、親の認知症や相続発生で、どんな困りごとが生じるかという「マイナス」の観点も考えなければなりません。

例えば、認知症等により親の判断能力が低下すれば、効果的な相続税対策(生前贈与や銀行借入による不動産の購入・建設)がその時点でできなくなります。将来の相続税の負担を減らせないという困りごとに繋がりかねません。

正常な判断ができなければ、不動産の売却も自分ではできなくなりますし、銀行窓口で預貯金を下ろすことも送金することも難しくなります。これらを俗に“資産凍結”と呼んでいます。親の資産が使えなくなっても、子世代の資産で立替払いや資金援助する経済的余裕と覚悟があれば、大きなリスクにはならないかもしれません。

その親に成年後見人をつけることで“資産凍結”は解除でき、成年後見人が不動産を売ったり、預貯金を下ろしたりすることも可能にはなります。

しかし、成年後見制度を利用すること自体、家族にとって大きなリスク・負担になり得ることは認識しなければなりません。子の一人が親の成年後見人になれば、その子に事務的負担を強いることになります(後見人は、後見監督人又は家庭裁判所に定期的に報告をする義務があります)。

親が亡くなるまで後見監督人への報酬を親の資産から支払わなければならないという経済的負担も見逃せません。さらに、親や子がそれぞれ望んでいた相続税対策や相続に向けた財産の整理・組換えが難しくなることも、リスクの一つです。

親の資産を老後のために自由に使えないことや、成年後見制度の利用が、本人及び家族にとってリスクや困りごとになる場合、どうすれば回避できるのか。親が元気なうちに、家族が専門家を交えて話し合うべきなのです。

「実現したい未来・叶えたい希望」というプラスの観点と「備えをしないことのリスク」というマイナスの観点。この二つを家族内で共有できると、いよいよ次の三つ目の議題として、家族が取り組むべき方向性が見えてきます・・・。

(記事は2019年11月1日時点の情報に基づいています)

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