目次

  1. 1. 「資産凍結リスク」「親なき後問題」から財産と家族を守る
  2. 2. 遺言や成年後見ではできない、何世代も先までの財産承継が可能
  3. 3. 「まだ早い」と感じるタイミングでの家族会議が大切
  4. 4. トラブルを防ぐには、専門家を交えた入念な信託設計を
  5. 5. 専門家選びの基準は、実績以上に相性とコミュニケーション能力
  6. 6. 信託業務の担い手を増やす家族信託普及協会の取り組みとは

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――近年、家族信託への関心が高まっています。家族信託の基本的な仕組みについて教えてください。また、どのような場面で活用が期待できるのでしょうか。

家族信託とは、信託法を根拠として「家族が財産を管理する仕組み」です。親が持つ財産を子ども世代が受託者として管理・処分する形が典型的です。

親が元気なうちに信頼できる子ども世代に財産を託しておけば、たとえ親が脳梗塞(こうそく)や認知症などで判断能力が低下したとしても、受託者となった子が専用の口座で預かっているお金から生活費や医療費を支払ったり、不動産を売却して介護費用を捻出したりできます。

特に不動産が絡むケースでは、家族信託が最有力の選択肢となります。例えば「実家を売却して介護費用に充てたい」と思っていても、介護施設への入居が必要になる頃には判断能力が低下していて売却できないこともあります。実家を信託しておくことで、受託者である子どもがスムーズに実家を売却して介護費用に充てられます。

――判断能力の低下は誰にでも起こりうることですが、具体的にどのようなリスクを認識しておくべきでしょうか。

実は多くの家庭で、親の通帳を預かったりアパート経営を代行したりと、すでに「信託的なこと」は行われています。しかし、信託契約を交わしていないサポートは非常に脆く、例えば「キャッシュカードの暗証番号を知っているから大丈夫」と思っていても、そのカードが磁気不良になれば、本人不在での再発行ができずお金をおろせなくなってしまいます。

子が親の生活費などをすべて立て替えられるほど資金的に余裕がある場合は別ですが、そうでなければ「今は代わりにお金をおろせている」という現状がこの先も続く保障はありません。どの家庭でも無意識に行っている家族の支え合いから一歩踏み出し、家族信託として形にするべきかどうかは、将来的な資産凍結リスクを正しく理解したうえで判断する必要があります。

――家族信託を活用することによって、他にどのような悩みや課題を解決できるのでしょうか。

一つは「すでに共有状態にある不動産の管理や売却」です。例えば兄弟姉妹で不動産を共有している場合、その兄弟姉妹が亡くなると、相続により持ち分がどんどん細かくなっていきます。関係性が希薄で疎遠な親族同士が不動産を共有している状態では修繕や売却が難しくなり、いわゆる塩漬けの状態になってしまいます。そうなる前に兄弟姉妹のうち一人に不動産を信託しておくことで、スムーズな一元管理を実現できます。

また、収益物件の承継に活用するケースもあります。親が持つ収益物件を複数の子のうち一人に信託して、親が亡くなった後は、家賃収入を兄弟姉妹で平等に分配する方法です。子の一人が一元管理をしつつ、実質的に不動産を共有相続したのと同じ効果が出せるため、喜びの声が多い活用方法です。

「親なき後問題」への対応も切実なニーズの一つです。例えば、障害のある子どもが一人っ子の場合、親の死後に財産を引き継いでも、その子どもに遺言を書く能力がなければ、残った財産はすべて国庫に帰属することになります。しかし、親戚などに財産管理を任せる信託契約を結び、あらかじめ次の承継先を指定しておけば、親戚や寄付先へと財産を繋ぐことができます。

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――生前対策としては遺言や成年後見制度などもありますが、家族信託ならではの強みは何でしょうか。

成年後見制度と家族信託の違いは、一言でいうと成年後見制度が「国の制度」、家族信託は「家族間で完結する仕組み」という点です。成年後見制度は誰でも利用できる汎用性がある代わりに負担が大きく、基本的に相続税対策もできなくなります。家族信託は家族間で完結する仕組みなので、柔軟かつ少ない負担で長期にわたって財産管理ができるのがメリットです。

遺言との違いは「財産管理の仕組みまで遺せるかどうか」です。たとえば、父が遺言で高齢の母に財産を渡したとします。しかし、財産を受け取った側も高齢だと、せっかく財産をもらっても自分で管理できないという問題が起こってしまいます。しかし、家族信託なら財産管理の仕組みごと遺せるので、高齢の配偶者でも障害のある子どもでも安心して財産を受け取れるのが大きな強みと言えます。

また、遺言で財産を渡す相手を選べるのは、実は一代限りなんです。遺言で妻が財産を受け取ったら、その次は妻が遺言を書かない限り、誰が引き継ぐかは指定できません。一方で家族信託では、例えば「自分が死んだら妻へ、妻が亡くなったら子どもへ、子どもが亡くなったら孫へ」というように、何世代も先まで財産の承継先を指定できます。

――家族信託を検討しはじめるベストなタイミングはいつなのでしょうか。

実情を言えば「まだ早い」と感じる時、具体的には気力も体力も充実している70代で考え始めるのがベストタイミングだと思います。

認知症などで判断能力が低下してしまってからでは、できることは限られます。家族信託は「老後の備え」と「その後の財産承継」をじっくり設計する仕組みだからこそ、元気なうちに始めないと効果が半減してしまいます。

実際に、信託契約の数カ月後に親の判断能力が低下したり、入院をきっかけに記憶が曖昧(あいまい)になったりするケースもあります。依頼者の方からは「あのタイミングで家族信託をしておいてよかったです」という声をよくいただきます。家族信託は家族の理解や制度設計に時間がかかることもあるので、思い立ったタイミングで家族会議を重ね、3カ月程度で一気にゴールまで完結させることが重要です。

――家族信託を検討し始めたら、まずはどのような準備が必要でしょうか。やはり家族会議が中心になりますか。

準備として家族会議は不可欠ですが、最初から「家族信託をどうするか」を話し合うわけではありません。まずは、親の保有資産(預貯金、証券、不動産など)と収支状況(年金、株の配当、家賃収入、生活費など)を正確に把握し、家族で情報を共有することが最優先です。

これらが不明確なままでは、将来介護が必要になった際に資金が底をつく可能性があるのか、そうなったら自宅を売却する必要があるのかといった問題を正しく検討できないからです。現状を共有・整理することで、子どもにとって漠然とした不安が安心に変わることもあります。

その上で、リスク対策の選択肢として銀行の代理人届出制度や生前贈与、そして家族信託などをフラットに比較検討するのが理想的な進め方です。親子間ではお金の話がしにくい場合も多いため、第三者である専門家を交えて話し合うことで、スムーズに家族会議ができるようになると思います。

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――家族信託は非常に便利な制度のように思えますが、注意すべき点はありますか。

注意点として挙げられるのは、制度への馴染みが薄いために家族間での理解に温度差が生まれやすいことです。例えば、熱心に調べた長男と、親の衰えに危機感のない他の兄弟との間で認識がずれると、せっかくの対策もスムーズに進みません。

専門知識を要する仕組みゆえに、家族だけで納得できる信託契約を設計するのは難しいです。我々のような専門家が家族会議に同席し、家族信託の仕組みや効果を噛み砕いて伝えることが第一歩となります。また、遺言とは異なり「託す側・託される側」の合意が必要なため、手間とコストがかかる点も無視できません。家族信託は認知症対策において一種の「掛け捨て保険」のような性質があるため、費用対効果をどう捉えるかが重要です。

専門家によって異なりますが、信託する財産の評価額(不動産なら固定資産税評価額)に対して1.2%から2%程度が費用の目安となります。例えば、資産規模が5000万円であれば60万円から100万円、1億円であれば120万円から200万円ほどです。決して安価な金額ではありませんが、「認知症にはならなかったけど、安心料として払ってよかった」と思えるよう、事前に家族全員で話し合って意思統一をしておくことをお勧めします。

――家族信託で起こりうるトラブルや、未然に防ぐための対策を教えてください。

トラブルの最大の防止策は、いかに「公平で誠実な家族会議」を行うかに尽きます。揉めごとは常に家族内で起きるため、一部の親族だけで話を進めず、疎遠な家族がいたとしても声をかけるという義理を通すことが大切です。たとえ家族会議に来なくても、声をかけたという誠意を見せることが後のトラブルの防止につながります。

また、専門家によって信託の制度設計が変わる点にも注意が必要です。依頼者の方には判断が難しい部分ですが、適切な提案になっているか、専門家自身がセカンドオピニオンを求めるなど、客観的な視点を取り入れているかどうかが重要になります。特定の誰かの独りよがりな設計にならないよう、専門家にサポートしてもらいながら、家族全員が納得できるゴールを見据えて進めることが大切です。

――実際に家族信託を進めることになったら、具体的にどのような手続きや期間が必要になりますか。また、専門家はどこまでサポートしてくれるのでしょうか?

専門家に依頼した後は、まず信託する財産を確定させ、専門家主導で家族全員と契約書草案の読み合わせを行いながら詳細な設計を進めていきます。手続きの期間はケースバイケースですが、一般的には3カ月程度が目安です。

専門家の役割としては、入り口となる家族会議への同席はもちろん、信託契約書を公正証書で作成し、不動産がある場合は信託の登記手続きも行います。また、家族信託は契約して終わりではなく、そこからがスタートの制度です。そのため、信託契約後に受託者による財産管理が軌道に乗るまでのフォローなど、基本的に家族と専門家が伴走しているイメージです。

――家族会議に同席してもらうとなると、専門家には法律知識以上の役割が求められそうですね。どのような基準で専門家を選ぶのがよいのでしょうか。

家族信託に取り組んでいる実績が多いのは司法書士だと考えています。司法書士は成年後見業務に精通している人が多く、親和性の高い後見と信託の両面からコンサルティングができるためです。

ただし、専門家を選ぶ際は実績だけでなく、コミュニケーション能力や相性などを見ることが大切です。家族信託を提案するにあたって「頑固なお父様にはどのような言葉が響くのか」「家族全員が納得するためにはどのような言い回しが最適か」など、AIでは代替できない人対人のコミュニケーションが重要になります。

そのため、メールのやり取りだけで相談先を決めるのではなく、オンライン会議や対面で直接話し、その専門家の人柄や考え方が「自分の家族にフィットするか」を判断することをお勧めします。

――家族信託普及協会ではどのような活動をされているのでしょうか。

当協会は一般の方向けというよりは、弁護士・司法書士などの士業や不動産・金融・介護に携わる方まで、家族信託に関わる専門家への研修や情報発信を行う機関です。1〜2カ月に一度、信託契約書の作り方やコンサルティング手法を伝える研修を実施しています。

現状、家族信託のみに特化した専門家は少ないですが、家族信託業務への取り組み方で大きな差が生まれます。例えば「年に数回、家族信託を扱う」のか、あるいは「家族信託業務をベースとしながら他の業務を並行している」のかで、提案できる内容や深さは全く異なります。だからこそ、相談先の見極めが大切なのです。

――最後に、家族信託の利用を検討している方に向けてアドバイスをお願いします。

家族信託という選択肢があることを家族で共有し、早めに家族会議で検討していただきたいです。その結果「うちはまだ早い」という結論に至るなら、それも一つの安心材料になります。

しかし、子どもから親の資産の話を切り出すのは「親の財産を狙っていると思われるのでは」と気が引けるものです。そこで親から子どもへ「まだ早いけれど、自分たちの老後について話し合いたい」と歩み寄ることが大切だと感じます。人は衰えを感じるほど疑心暗鬼になってしまいます。気力も体力も充実し、家族を信頼できる今だからこそ、お互いの想いを見つめ合う機会を設けていただければと思います。

一般社団法人 家族信託普及協会
2013年10月設立。超高齢化社会における新たな財産管理・承継の手法として「家族信託」にいち早く着目し、士業やコンサルタントと共に健全な普及と発展を目的に活動する。専門家向けに研修会や情報提供を行い、家族信託業務の担い手を育成。また、一般向けにはセミナーなどを通じ、安心した老後と円満な相続の実現に貢献している。

(記事は2026年2月1日時点の情報に基づいています)

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