目次

  1. 1. 生前贈与とは
  2. 2. 生前贈与と相続の違い
    1. 2-1.財産を渡す側が生きているかどうか
    2. 2-2. 財産を渡す意思があるかどうか
    3. 2-3. 遺産分割協議が必要かどうか
  3. 3. 生前贈与の効果・メリット
    1. 3-1. あげたい人にあげたい財産を渡せる
    2. 3-2. 相続の手間を省ける
    3. 3-3. 相続税の負担を減らせる
  4. 4. 生前贈与に対する2つの課税方法①|暦年課税制度
    1. 4-1. 暦年課税制度とは
    2. 4-2. 暦年課税制度の税率
  5. 5. 生前贈与に対する2つの課税方法②|相続時精算課税制度
    1. 5-1. 相続時精算課税制度とは
    2. 5-2. 「年110万円」の基礎控除と「累計2500万円」の特別控除がある
    3. 5-3. 相続税計算時に持ち戻す生前贈与の財産額は「贈与時の時価」
    4. 5-4. 贈与者・受贈者に条件あり
    5. 5-5. 届出が必要
  6. 6. 暦年課税と相続時精算課税はどちらがいい?
  7. 7. その他の生前贈与の特例と注意点
    1. 7-1. 教育資金の一括贈与の非課税措置
    2. 7-2. 結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置
    3. 7-3. 住宅取得等資金の贈与税の非課税措置
    4. 7-4. 夫婦間における居住用不動産の贈与の非課税措置
    5. 7-5. 特定障害者に対する贈与
  8. 8. 生前贈与のやり方|手続きの流れは?
    1. 8-1. ステップ①|誰に何を贈与するかを決め、相手の同意を得る
    2. 8-2. ステップ②|贈与契約書を作成する
    3. 8-3. ステップ③|財産を移転する
    4. 8-4. ステップ④|贈与税の申告・納付をする
  9. 9. 生前贈与を行う際の注意点
    1. 9-1. 偏った生前贈与は相続トラブルの原因に
    2. 9-2. 名義預金と定期贈与に要注意
    3. 9-3. 相続開始前3~7年間は生前贈与加算の対象
    4. 9-4. 贈与し過ぎると老後資金が不足する
  10. 10. 誰に対して贈与すると効果的?
    1. 10-1. お金を必要としている人に贈与する
    2. 10-2. たくさんの人に少しずつ贈与する
    3. 10-3. 生前贈与と相続、どちらが得?
  11. 11. 生前贈与に関してよくある質問
  12. 12. まとめ 生前贈与が不安になったら税理士に相談を

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生前贈与とは、生きている人が生きている人に財産を贈与することを言います。相続と一見似ていますが、明確な違いがあります。

民法という法律では、次の3つの条件をすべて満たしたものを「贈与」としています。

  • 「あげます」「もらいます」と財産を渡す側(贈与者)・財産を受け取る側(受贈者)が合意していること
  •  贈与者が無償で受贈者に財産を渡すこと
  •  贈与者は財産を渡す義務が生じるが、受贈者には何ら義務が発生しないこと

そして、贈与者・受贈者がともに生きている人である場合の贈与が「生前贈与」となります。

「財産を無償で渡す」という点で相続と生前贈与は似ています。しかし、実際には次のような違いがあります。

「生前贈与は財産をあげる側が生きている。しかし相続は財産を引き継がれる側が亡くなっている」――この違いがもっとも大きいです。生前贈与は元々の財産の持ち主が生きています。しかし相続は元の財産の持ち主が亡くなった時点で発生します。つまり相続は、財産を引き継がれる側が亡くなっていることが前提なのです。

贈与は契約です。つまり、贈与者・受贈者が財産を「あげる」「もらう」について意思表示をし、合意することが必要です。一方、相続は財産の承継です。財産の持ち主が死亡したら、その財産は自動的に相続人に引き継がれます。相続人に受け取る意思があるかどうかに関係なく、です。

相続だと遺産分割協議という「誰がどの財産をどれくらい受け取るか」という相続人同士の話し合いが必要です。死亡した時点のままだと「亡くなった人の財産が相続人全員の共有状態に置かれている」からです。

一方、生前贈与はこの話し合いの必要がありません。贈与契約の段階で「受贈者にどの財産をどれくらい渡すか」が決まっているからです。

生前贈与にはどのような効果があるのでしょうか。ここで生前贈与をした場合のメリットを確認しましょう。

相続では相続財産がいったん相続人たちの共有に置かれた後、遺産分割協議で相続財産が分けられます。どの財産がどれくらいどの人の手に渡るかについて、元々の財産の持ち主は関与できません。遺産分割協議のときにはすでに財産の持ち主は亡くなっているからです。

しかし生前贈与なら、贈与者の意思で贈与財産と受贈者を選ぶことができます。言い換えると「生きている間に、あげたい人にあげたい財産を渡せる」のです。

相続には手間がかかります。相続財産の調査や相続人の捜索、遺言書の有無の確認や検認手続き、そして遺産分割協議があります。これらが終わった後、相続登記や名義変更などもしなくてはなりません。また相続税の申告もあります。

生前贈与で生きている間に財産を渡しておけば、こういった相続に伴う手続きの手間を減らせるのです。

相続税は通常、正味の遺産総額が基礎控除額を上回った場合に課されます。この基礎控除額は「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算されます。

【関連】相続税の基礎控除とは 遺産はいくらまで無税? 計算式から注意点まで解説

相続税は「相続財産が多ければ多いほど税負担が重くなる」累進課税制度です。特に賃貸アパート・マンションのような収益物件の場合、生前の収入の分だけ相続財産も増えていきます。

しかし、生きているうちに財産を配偶者や子、孫に渡しておけば、その分相続財産が減ります。収益物件ならば賃料という現金収入ごと、生前に家族に引き継げます。結果、家族の将来の相続税の負担を減らすことができるのです。

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生前贈与を行った場合の贈与税は現在、2つの制度があります。1つは暦年課税制度、もう1つは相続時精算課税制度です。

暦年課税制度とは、毎年1月1日から12月31日までの間に贈与された財産の合計額について、課税する贈与税のしくみです。現在、「特例贈与財産」と「一般贈与財産」に分けて税率を適用します。特例贈与財産と一般贈与財産の内容は次の通りです。

  • 特例贈与財産…その年の1月1日時点において18歳以上の人が両親や祖父母から贈与された場合の財産
  • 一般贈与財産…上記以外の財産

特別贈与財産と一般贈与財産、それぞれの税率は次のようになっています。

贈与税の速算表
贈与税の速算表

引用元:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

なお、贈与税を計算するときは、1年間にもらった財産の合計額に直接税率をかけるのではありません。受贈者1人につき、年110万円の基礎控除を差し引いたうえで贈与税の税率を乗じて計算します。

もし、特定の誰か1人だけから財産を単発でもらったのならば「(もらった財産の金額-年110万円)×税率-控除額」で贈与税額を計算するのです。「年110万円以下の贈与なら贈与税はかからない」と言われるのはこのためです。

なお、暦年課税制度には「生前贈与加算」という制度があります。これは「死ぬ間際の贈与は、たとえ年110万円以下の贈与であっても贈与財産は相続財産に加算する」というものです。2023年12月31日までは、この生前贈与加算の期間が死亡日以前3年間でした。2024年1月1日以降、この加算対象の期間が7年間となりました。

生前贈与の相続財産への加算の変更点についての図解
生前贈与の相続財産への加算の変更点を図解。2024年以降の贈与から新制度が適用されています

なお、この生前贈与加算で相続税に影響が出るのは配偶者や子といった相続人です。相続人ではない孫に対して死亡日直前に贈与をしても影響はありません。

相続時精算課税制度 とは、生前贈与された財産について課された税金を、贈与者の死亡時に精算するという制度です。生前贈与時は贈与税が、死亡時(相続開始時)は相続税が課されます。

生前に贈与税が課されていれば、相続時に生前贈与分も含めて相続税を計算し、「生前の納税額が少なければ追加納付、生前の納税額が多すぎれば還付」という形になります。贈与者の生前に納めた贈与税は、相続税の前払のような役割を果たすのです。

相続時精算課税制度には、次のような特徴があります。

相続時精算課税制度には次の2つの控除制度があります。

  • 基礎控除…1年間に相続時精算課税制度における贈与者から贈与された財産の合計額が110万円以下なら贈与税も相続税もかからない
  • 特別控除…相続時精算課税制度における贈与者から贈与された財産のこれまでの累計額が2500万円以下なら贈与税はかからない

基礎控除額以下なら贈与税の申告は不要です。相続税もかかりません。たとえ贈与者の死亡直前の贈与であっても、です。

しかし基礎控除を超えたら特別控除があっても贈与税の申告が必要となります。また、相続税もかかるのです。

なお「贈与税の申告が期限後となった」「贈与された財産の累計額が2500万円を超えた」となった場合、特別控除は使えません。一律20%の税率で贈与税を計算することになります。

相続時精算課税制度についての図解
相続時精算課税制度の図解。累計2500万円までの特別控除とは別に年間110万円まで基礎控除が認められます

生前贈与された財産が年110万円を超えると、超えた部分の金額は相続財産に持ち戻します。この持ち戻しのときの財産の金額は、相続時の時価ではなく、贈与時の時価です。そのため、値上がり確実な財産で相続時精算課税制度を活用すると、将来の相続税を抑えられます。

相続時精算課税制度は誰でも利用できるわけではありません。贈与者・受贈者ともに条件があります。

  • 贈与者…最初に贈与する年の1月1日において60歳以上の両親か祖父母
  • 受贈者…最初に贈与を受ける年の1月1日において18歳以上の子か孫

相続時精算課税制度で贈与を受けるなら、制度対象としたい最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に「相続時精算課税選択届出書」を受贈者の住所地を管轄する税務署に提出する必要があります。なお、一度提出すると、届出書に記載された贈与者・受贈者の間の贈与は二度と暦年課税制度に戻れません

暦年課税制度と相続時精算課税制度の違いをまとめると、次のようになります。

 

項目 暦年課税制度 相続時精算課税制度
非課税となる額 年間110万円(贈与を受ける方一人あたり) 基礎控除:年間110万円(贈与を受ける方一人あたり)
特別控除:累計2,500万円(選択後、基礎控除110万円を超えた分の一生の累計額)
対象者 誰でも可
※特例贈与の場合
・贈与者は父母や祖父母
・受贈者は満18歳以上の子や孫(養子を含む)
贈与者:満60歳以上の父母や祖父母
受贈者:満18歳以上の子や孫(養子を含む)
申告 贈与税額がある場合は申告 制度を選択する時に相続時精算課税選択届出書を提出
基礎控除の年間110万円を超える場合は都度申告
税率 10〜55%の超過累進税率(特例贈与の場合は、贈与税率が軽減される) 贈与税(基礎控除110万円を除いた残額)が累計2,500万円を超えた場合、一律20%
※期限後申告の場合も一律20%で課税
相続税との関係 相続人が相続開始前3〜7年以内に被相続人から贈与を受けた財産は、相続財産に持ち戻して相続税を計算する。
ただし、改正により延長された期間(相続開始前4〜7年)に贈与を受けた財産については100万円まで加算しない
相続発生時には贈与財産は全て相続財産に持ち戻して相続税を計算する(年間110万円の基礎控除を超えない贈与財産は除く)

生前贈与加算については、暦年課税制度よりも相続時精算課税制度の方が有利です。死亡日以前7年間の贈与であっても、相続時精算課税制度ならば年110万円以下の贈与に相続税はかかりません。

また、暦年課税制度は、もらった財産の金額により税率が変わります。もらった財産額が少なければ低い税率が、多ければ高い税率で贈与税を計算するしくみです。一方、相続時精算課税制度は一律20%の税率で贈与税額を算出します。

ただし相続時精算課税制度を選択していると、相続税の税務調査の対象期間が長くなります。届出後から贈与者の死亡までの全期間が相続税の課税対象になるからです。

つまり、相続時精算課税制度は、将来の相続に備えて贈与の事実や金額、内容を財産を受け取る受贈者側がきちんと申告をする・記録するなどして管理しなくてはならないのです。

このほかにも生前贈与の税負担が軽くなる特例があります。主に次のような制度です。いずれも暦年課税制度や相続時精算課税制度の控除制度とは別に、非課税枠が受けられるしくみです。

親や祖父母といった扶養義務者から必要の都度渡される生活費や教育費にはもともと贈与税はかかりません。しかし、ときには「子や孫の将来に備えて今のうちにまとまった資金を渡しておきたい」と考えることもあるでしょう。このようなときに有効なのが、教育資金の一括贈与の非課税措置です。

この制度では、教育資金を親や祖父母からまとめて贈与されても1500万円まで(学校等以外に充てる分は500万円まで)贈与税が非課税になります。ただし、次の条件があります。

  • 2026年3月31日までに手続きすること
  • 金融機関等と信託契約等を行うこと
  • 受贈者は30歳未満であり、かつ贈与者の子か孫であること
  • 受贈者の合計所得金額が1000万円以下であること

幼い孫が将来、大学進学や留学でまとまった資金が必要となったときの備えとなるのが魅力的です。ただし受贈者が原則30歳に達したときなどに口座に使い残しがあると、贈与税がかかります。また、贈与者が死亡した場合も、口座の残額は原則として相続税の対象となるので注意が必要です。

結婚や子育てに必要な資金を親や祖父母からまとめて贈与されても1000万円まで(結婚資金は300万円まで)贈与税が非課税になる制度です。次の条件があります。

  • 2027年3月31日までに手続きすること
  • 金融機関等と信託契約等を行うこと
  • 受贈者は18歳以上50歳未満であり、かつ贈与者の子か孫であること
  • 受贈者の合計所得金額が1000万円以下であること

幼い孫の将来の結婚式や妊娠・出産・育児に必要な資金をあらかじめ用立てられるのが魅力です。ただし、教育資金の一括贈与と同じく、一定要件に該当すると、贈与税や相続税がかかるおそれがあります。

子や孫が住宅を購入するにあたり、親や孫が資金援助をしても最大1000万円まで(省エネ等住宅以外は500万円まで)贈与税が非課税となる制度です。主な条件は次のようになっています。

  • 2026年12月31日までに贈与をすること
  • 受贈者が資金贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であること
  • 受贈者の合計所得金額が2000万円以下(床面積が40㎡以上50㎡未満の住宅を購入するのなら1000万円以下)であること
  • 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅を新築・取得・増改築をすること
  • 贈与を受けた年の翌年中に新築・取得・増改築をした住宅に入居すること

メリットの大きい制度ですが、住宅ローン控除と併用する場合、控除を受けられる対象金額がローン全額ではなくなるといったデメリットもあります。なお、この制度を利用するなら、贈与税の申告が必要です。

長年連れ添った配偶者に住宅か住宅を購入するための資金を贈与しても、2000万円まで非課税になる制度です。次のような条件があります。

  • 贈与者と受贈者の間に20年以上婚姻関係があること
  • 贈与された年の翌年3月15日までに、受贈者が贈与された住宅か、受け取ったお金で買った住宅に入居していること

この制度は同じ配偶者からの贈与について一生に一度しか使えません。なお、この制度を利用するなら贈与税の申告が必要となります。

障害者の方で特定障害者に当てはまる方の生活費などに充ててもらうべく、特定障害者を受託者とする信託契約を通じて財産を信託すると、一定額まで特定障害者の方の贈与税が非課税となります。

非課税となる上限額は、特定障害者のタイプに応じて次のようになります。

  • 特別障害者…6000万円
  • 特別障害者以外で精神に障害のある方…3000万円

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ここで生前贈与の流れを確認しましょう。次のような手順になります。

最初に誰に何を贈与するかを決めましょう。どんな人にどのように財産を活用してほしいのかをイメージするとよいでしょう。

決めたら、贈与したい相手に贈与したい財産や時期について話し、同意を得ます。贈与は財産をあげたい人の単独の意思ではできません。財産をあげる人・もらう人の双方が贈与の内容について合意していないと贈与は成立しないのです。

贈与する内容を決め、贈与者・受贈者双方の合意が取れたら、贈与契約書を作成します。口頭でも贈与はできますが、確実に贈与を実行するなら贈与契約書を作成した方が安心です。また、贈与の意思があったことの証拠にもなります。

贈与契約書のサンプルは次のようになります。

金銭の贈与契約書のサンプル
金銭の贈与契約書のサンプル

次に、財産を贈与者から受贈者に移転します。現金などは渡すだけで十分ですが、できれば銀行振り込みにしておくとよいでしょう。贈与したことの記録が残るからです。なお、贈与する財産が土地や建物なら登記が、自動車や船舶なら登録の変更が必要です。

1年間でもらった財産の額が110万円を超えたならば、贈与税の申告をします。暦年課税制度での贈与であっても、相続時精算課税制度での贈与であっても、必要です。

申告時期は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。納税もこの期間に行います。暦年課税制度はもらった財産の額が年110万円を超えると納税しなくてはなりません。

一方、相続時精算課税制度は贈与財産の額が年110万円の基礎控除を超えても、累計2500万円の特別控除の枠内に収まるのなら非課税です。ただし、3月15日の期限を過ぎて申告すると税率20%で贈与税がかかります。

生前贈与を行うにあたり、以下の点に注意しましょう。

特定の誰かだけを優遇して生前贈与を行うと、将来の相続でのトラブルの原因になります。特定の人に対する過剰な贈与は、他の相続人の遺留分を侵害する恐れがあるからです。

遺留分とは、相続人が最低限受け取れる相続分のことを言います。相続分は、次のようになっています。

相続人ごとの遺留分の割合についての図解
相続人ごとの遺留分割合の一覧図。相続人の組み合わせによって、それぞれの遺留分は異なります

特定の人への遺贈や生前贈与がこれら遺留分を侵害するレベルまで行われると、相続人は遺留分侵害額請求を行うことができます。

【関連】遺留分侵害額請求とは? 協議から調停・訴訟までの流れ、時効を解説

無用なトラブルを避けるためにも、家族間の不公平がないように生前贈与を検討しましょう。

生前贈与については「名義預金」「定期贈与」に注意しましょう。

【名義預金とは】
名義預金とは「名義は子や孫だけど実質的な持ち主は親や祖父母」という預金のことです。次のような点が着目されると、税務調査で名義預金として指摘される恐れがあります。

  • 印鑑と通帳は贈与者(親や祖父母)が管理している
  • 子や孫は預金が贈与された事実を知らない
  • 預金が引き出されたり、使われたりした形跡がない(預金の所有者である子や孫が自由に預金を使えないのは不自然)

名義預金として認定されると、過去の贈与は成立していないこととなります。つまり、預金は贈与者である親や祖父母の財産となるわけです。これが贈与者の死亡後に発覚した場合、相続税の申告をやり直ししなくてはなりません。

【定期贈与とは】
定期贈与とは、あらかじめ贈与する金額を決めて贈与者・受贈者の間で贈与契約をし、これにもとづいて分割で贈与を定期的に行うことを言います。

たとえば、毎年100万円ずつ現金を贈与したとしても、その元々の契約が「1000万円の現金を10年に分割して贈与する」というものであったなら、これは定期贈与に当たります。この場合、贈与された金額は毎年贈与される100万円ではなく、贈与契約をした1000万円となるのです。

もし税務調査でこの事実が発覚したら、贈与契約をした年分にさかのぼって1000万円の現金について贈与税の申告・納付が必要となる可能性があります。

相続開始前3年から7年という期間は、暦年課税制度の生前贈与加算の対象となります。つまり、生前贈与をした財産であっても相続財産に加算し、相続税の対象となるのです。

なお「3年から7年」というあいまいな表現の背景には税制の切り替わりがあります。「生前贈与加算が7年となるのは2024年1月1日以降」ですが、実際の申告作業で死亡日以前7年間の生前贈与を相続財産に加算するのは2031年1月1日以降の相続開始分からです。

贈与の時期 加算対象期間
~2023年12月31日 相続開始前3年間
2024年1月1日~ 贈与者の相続開始日
2024年1月1日~2026年12月31日 相続開始前3年間
2027年1月1日~2030年12月31日 2024年1月1日~相続開始日
2031年1月1日~ 相続開始前7年間

引用元:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし|国税庁

「子の税負担を軽くしたい」と思って生前贈与をしても、贈与後ほどなくして死亡してしまったら、贈与した財産にも相続税がかかるのです。

子や孫のためによかれと思ってたくさん贈与をしてしまうと、贈与者である親や祖父母自身の老後資金が足りなくなる恐れがあります。また、贈与されることに子や孫が慣れてしまうと、だんだん感謝もされなくなるかもしれません。穏やかで安心した老後を過ごしたいのなら、まずは自分の生活を第一に考えましょう。贈与は無理のない範囲で検討するのがベストです。

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生前贈与をするなら、贈与の効果が高くなるような相手にしたいものです。次のような人たちに贈与をすれば、生前贈与そのものが活きた財産となる可能性が高まります。

幼い孫やこれから家を買おうと考えている社会人の子への生前贈与は、効果が高くなる傾向にあります。

  • 幼い孫が将来留学や大学院進学を希望するようになったときに備え、教育資金の一括贈与の非課税措置を活用する
  • 結婚した社会人の子が自宅を変えるように住宅取得等資金の贈与税の非課税措置を活用して購入資金を援助する

このように生前贈与を行えば、税制優遇が受けられるだけでなく、子や孫の人生を支える結果にもなります。

多くの人に少しずつ贈与したほうが次のような点でメリットがあります。

【家族間のトラブルを防げる】
特定の誰かにだけ生前贈与をすると将来の相続でトラブルになる恐れがあります。しかしみんなに公平に少しずつ贈与をすれば、その可能性を低く抑えられます。

【贈与税を抑えられる】
贈与税は「贈与された財産の額が多いと高い税率が、少ないと低い税率が適用される」税目です。特定の誰かにまとまった財産を贈与すると贈与税は高くなりがちです。しかし少ない贈与なら受贈者の贈与税の負担は小さく済みます。なおかつ、たくさんの人に贈与すれば、その分将来の相続財産も小さくなり、結果、相続税も抑えられるのです。

生前贈与をたくさん行えば、その分相続財産は少なくなります。結果、相続税を抑えられます。ただし、次のようなリスクも考慮する必要があります。

  •  贈与税の方が相続税より高くなることがある
  • 自宅や賃貸アパートを生前贈与すると、小規模宅地等の特例による相続税節約のメリットが受けられない
  • 配偶者に生前贈与をしすぎると、相続税での配偶者の税額軽減のメリットを受けられない可能性がある
  • 教育資金や結婚・子育ての贈与税の非課税措置を活用しても、贈与者死亡時に使い残しがあったら相続税がかかるリスクがある

生前贈与と相続のどちらが有利かは財産状況や家族構成などによって異なるため、相続に詳しい税理士に相談して最適な選択を検討することをおすすめします。

Q. 生前贈与は口約束でもできる?

贈与契約は口頭でも成立します。つまり、生前贈与は口約束でも可能なのです。しかし、口約束だと「言った、言わない」の争いになる可能性があります。確実に実行するなら贈与契約書として書面に残すのが無難です。

Q. 贈与税はいくらからかかる?

贈与税は暦年課税制度・相続時精算課税制度のいずれも、年110万円を超えたら確実に贈与税がかかります。

なお、相続時精算課税制度は年110万円を超えても特別控除が適用されます。そのため「1年間に受け取った贈与財産の額-年110万円」が合計で2500万円を超えるまでは贈与税はかかりません。この金額の累計額が2500万円を超えると、一律20%の税率で贈与税がかかります。

Q. 生前贈与を申告しないとどうなる?バレる?

1年間でもらった財産の合計額が年110万円を超えると、贈与税の申告が必要です。これは暦年課税制度だけでなく、相続時精算課税制度についても言えます。

期限までに申告せず、期限後に申告すると無申告加算税や延滞税がかかります。さらに、相続時精算課税制度は、期限後申告だと特別控除が使えません。結果、税率20%の贈与税を納めることになります。

なお、無申告は相続税の調査で発覚することがあります。「バレない」と思わず、きちんと申告するようにしましょう。

Q. 毎年110万円ずつ贈与すれば、税金はかからない?

毎年その都度、贈与者と受贈者の間で合意をしたうえで年110万円ずつ贈与をするなら贈与税はかかりません。しかし最初にまとまった金額の贈与について合意をし、それを分割して支払うものならば、定期贈与として贈与税がかかる可能性があります。
参考:No.4402 贈与税がかかる場合|国税庁

このほか、受贈者が他の人からも贈与を受けているなら贈与税がかかるおそれがあります。贈与税は、受贈者が今年1年間にもらった財産額についてかかるからです。「もらった財産の合計額が年110万円を超えると、贈与税がかかる」と押さえておくとよいでしょう。

Q. 不動産を生前贈与すると有利?

不動産の生前贈与は、以下のメリットがあります。

  • 現金収入を生む賃貸物件を生前贈与すれば、将来の相続税を抑えられる
  • 若い世代に不動産を有効活用してもらえる
  • 不動産の値上がりが確実なら、値上がり前の時価での贈与で税負担を抑えられる

その一方、次のデメリットもあります。

  • 自宅や賃貸物件、事業用物件は小規模宅地等の特例を使えない
  • 不動産取得税など所有権移転のコストが高い
  • 若い世代に固定資産税など維持コストが生じる

どちらが有利かは、事前の検討が必要です

生前贈与についてしくみと税制上の扱い、メリット・デメリットをお伝えしました。

生前贈与そのものはシンプルです。しかし昨今の税制改正で贈与税のしくみが複雑になっています。特に昨今注目を集めている相続時精算課税制度は、基礎控除の「年110万円」が登場したことにより、一般の方が混乱するケースが少なくありません。また、贈与税には次のような注意点があります。

  • 相続時精算課税制度は、一度選択したら二度と暦年課税制度に戻れない。年110万円を超えた部分はすべて相続財産に持ち戻して相続税を申告しなくてはならない
  •  相続時精算課税制度の受贈者となった孫は、相続人でなくても相続税の申告をする必要がある
  • 暦年課税制度は生前贈与加算に注意。たとえ年110万円以下の贈与であっても相続財産に加算して相続税を計算しなくてはならない

安易に贈与をしてしまったり、相続時精算課税制度を選択してしまったりすると、後々「やらなければよかった」と悔やむことになりかねません。生前贈与が気になり始めたら、決断する前に税理士などの専門家に相談したほうが安心です。

(記事は2025年11月1日時点の情報に基づいています)

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