目次

  1. 「死後の寄付」だから手元のお金の心配は不要
  2. 震災時の寄付経験、クラファンのブームも後押し
  3. おひとりさまの遺贈に多い「包括遺贈」に注意
  4. 最初の一歩はエンディングノートから

――「遺贈寄付」についてお教えください。

遺贈寄付は、自分の死後に残る財産の全部または一部を公益団体やNPO法人などに寄付をすることです。生前に遺言を書いておくことが代表的な遺贈寄付の方法ですが、そのほかに信託による寄付、生命保険による寄付、死因贈与契約による寄付もあります。

遺贈寄付は、「今」行う寄付ではなく、「将来自分が死亡したとき」に残っていた財産から寄付をするので、手元のお金が減るわけではありません。「老後の生活費が心配で寄付できません」と言う方がいるのですが、「今使えるお金が減るわけではないのでどうぞ自由に使ってください」と伝えています。また、「おひとりさま」で相続人がいない場合、遺産は最終的には国庫に入ってしまいます。遺贈寄付は、死後の財産の使い道を自分の意思で決めることができる方法としても注目を集めています。

――遺贈寄付をすることによるメリットや魅力は何でしょうか。

社会貢献や生きがいにつながる、ということが一つ大きいでしょう。寄付をする、つまり社会のためにお金を使うということは、望む未来やあるべき社会の姿を選び取る行為です。自分の関心がある社会問題に取り組んでいる公益団体に遺贈寄付をすることは、その活動を支え、自分の生きた証しを残すことになります。

また、社会全体に与える影響も大きいです。今の日本は人口減社会です。2020年の全人口1億2615万人、65歳以上は3603万人ですが、日本の将来推計人口(令和5年推計)によると2045年の総人口は1億880万人、65歳以上は3945万人。つまり、全人口が減少しているのに高齢者は増えるというわけです。

被相続人の死亡時の年齢構成も高齢化しています。平成の時代は「70~80代が亡くなって、50代の人が相続する」というのが一般的でした。令和になり「人生100年時代」と言われるように「80~90代が亡くなって、60代が相続する」ことも増えています。

この“10歳の差”はとても大きいと考えています。50代は子どもが大学生ぐらいで教育費もまだかかり、住宅ローンも残っていてまだまだお金を使う世代。しかし、60代になると子どもは独立し住宅ローンも返し終わっている。会社員生活も終わりが見えてきた頃で、そんなにお金を使わない。つまり、90代の人が亡くなって60代の人が相続して、そのまま財産を貯め込んだまま30年後に亡くなって……と高齢者の間で資金循環をしてしまうのです。これを「老老相続」と言います。高齢者の世代からお金が外に出ていかないこの状況は、日本経済にとっても大変な打撃を与えます。

日本の個人金融資産は2000兆円を超えていますが、このうち年間50兆円が相続による名義の書き換えや換金で動いていると言われています。しかし、その大半が老老相続で高齢の相続人へ引き継がれ、消費や投資に向かわない財産になっている。この50兆円の行き先のうち、相続人から遺贈寄付の方に1%でも動いていけば、5000億円がNPO法人や公益法人に活きたお金として寄付され、社会課題の解決に寄与するわけです。現在の寄付総額が5000億ほど(ふるさと納税を除く)なので合わせれば倍になるということを考えれば、社会全体にとても大きなインパクトをもたらしてくれそうだと思いませんか。

【関連】遺贈寄付とは? 自分の死後、財産を公益団体に贈る メリットや注意点を解説

――日本における遺贈寄付の現状について。認知度や寄付件数は増加傾向にあるのでしょうか。

NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえが実施した「第2回遺贈寄付に関する実態調査」によれば、遺贈寄付の認知度は全体で70.4%と、第1回調査の67.4%から増加。遺贈寄付の意向がある人の割合も全体で7.6%から10.0%になり、認知・意向ともに上昇していることがわかります(第1回調査の調査対象者は50~70代のため、50代以上で比較)。

遺贈寄付の件数も、NPO法人セイエンが国税庁に開示請求して得たデータを見ると、増加傾向にあると言えます。

――震災やクラウドファンディングの普及なども後押しているのでしょうか?

そうかもしれませんね。遺贈寄付は、「寄付をしたことがある」という経験をすることが大きなハードルを下げることがわかっています。東日本大震災が発生した2011年は、災害支援の個人の寄付総額が大幅に増加し、日本人の寄付への意識が変わった「寄付元年」とも呼ばれています。クラウドファンディングによって寄付に対する抵抗感が下がってきたことも一因かもしれません。

――寄付先はどのように選べば良いでしょうか。信頼できる寄付先を見分ける方法はありますか。

まずは、気になる公益団体・法人のホームページを見て、遺贈寄付を受け付けているか確認しましょう。遺贈寄付パンフレットなどの資料を取り寄せて、活動内容や寄付金の使途を見定めることも重要です。一度、少額でお試し寄付をするのもおすすめです。お礼状やイベントの招待が送られてくることもあるので、そこで相性を見極めるのも一つの手です。

――遺贈をする際のポイントや注意点すべき点を教えてください。

相続人が全くいない方は包括遺贈を検討することもあると思いますが、包括遺贈を受ける団体が少ないので注意が必要です。これは、民法の規定で「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する」とされているためです。つまり、包括遺贈者は「プラスの財産もマイナスの財産(債務)も引き継ぐ」ことになる。「財産の2分の1を包括遺贈する」のであれば、借金の2分の1も承継することになってしまい、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合も考えられるので、遺贈寄付を受け取る非営利団体にとってはリスクになってしまう。包括遺贈で遺言を書く場合は、事前にその団体に相談しましょう。

もう一つは不動産遺贈です。不動産は売却できない可能性があるため不動産の寄付は受け付けていない団体が多いです。また、無償で遺贈して譲渡所得がなくても、事実上あったとみなされる「みなし譲渡課税」の問題もあります。これは、法人に不動産を遺贈した場合、実際には売買がなされていないのに譲渡があったとみなし、含み益に対して課税される制度です。この税金を負担するのは遺贈を受けるNPO法人ではなく寄付した側、すなわち遺贈者の相続人(子どもなど)であることに注意が必要です。これを回避する方法としては、遺言書に「この遺贈の負担として、みなし譲渡所得税は受遺者が支払うものとする」と書くなどの方法があります。

【関連】遺贈寄付をするにはどんな手続きをするの? 流れに沿って解説

――齋藤さんが遺贈に興味を持った理由や、ご自身のキャリアについて教えてください。

信託銀行で遺言信託の業務を担当していたとき、遺贈寄付のご依頼を多く担当していました。しかし、相続人である親族による反対によって遺贈希望者の意思が実現されないケースをよく目にしていました。こうした課題を解決するため、2014年に弁護士、税理士らとともに勉強会を立ち上げました。これが、後の全国レガシーギフト協会となります。そして、転職先の信託銀行で遺言信託業務を立ち上げた後、2018年に遺贈寄附推進機構を設立しました。現在は、遺贈関係のコンサルティング業務と普及活動に専念しています。

現在、包括遺贈や不動産遺贈を受け入れられる団体は少数のため、そこに遺贈寄付が集中してしまっているという課題もあります。そこで、公益団体などに対して包括遺贈や不動産の遺贈も受け入れられる体制づくりのコンサルティングや相談を受け付けています。

寄付者の方は「善意の寄付だからどんな財産でも受け取ってもらえる」と思っていたり、ご自身の希望にかなう団体を探しきれなかったりするケースも多いです。遺贈寄附推進機構では、遺贈寄付者の希望をヒアリングし、寄付先選定のサポートやマッチングなども行っています。

弁護士や税理士、司法書士さんなど遺言の作成業務に携わっている専門家との連携にも力を入れています。遺贈寄付は、通常の遺産相続に関する法律や税制の知識だけでなく、包括遺贈やみなし譲渡課税など複雑な問題もあります。遺贈寄付をしたいと思った人が、弁護士さんの元を訪れたにもかかわらず「よくわかりません」「手続きが大変ですから、やめておいたほうがいいですよ」と言われてしまっては元も子もありません。相続業務に日頃から関与している士業の方に遺贈寄付をもっと知っていただくことで、遺贈寄付がさらに広がっていくはずだと考えています。

――最後に、遺贈に関するメッセージをお願いします。

「遺言を書いてみましょう」と言われても、なかなか踏み出せないと思います。そこで、遺言と違って法的効力はないけれども、まずはエンディングノートを書き始めることからおすすめします。

エンディングノートは、これから生きるご自身のために書くものでもあります。突然倒れたり事故に遭ったりすることは誰にでも起こり得ることです。そんな万が一のときのために生命保険に入るような感覚で、「持病の有無」「かかりつけの病院」「常用薬」などの欄から埋めてみてください。すべての欄を書く必要も、完成を目指す必要もありません。お墓の欄や病院の欄など、ご自身が一番大切だと思っているところだけ書くので構いません。

前向きな終活を始めることが、その先の相続を考える一つのきっかけになります。そこで遺贈という選択肢に結果的につながっていけば良いなと思っています。

気負わず終活に向き合えるエンディングノートを始めてみるのも、遺贈を考える一歩に
気負わず終活に向き合えるエンディングノートを始めてみるのも、遺贈を考える一歩に

齋藤弘道さんプロフィール
「遺贈寄附推進機構」代表取締役、「全国レガシーギフト協会」理事。みずほ信託銀行の本部にて遺言信託業務に従事し、営業部店からの特殊案件やトラブルに対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げ(後の全国レガシーギフト協会)。2014年に野村信託銀行にて遺言信託業務を立ち上げた後、2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」「非営利団体向け不動産査定取次サービス」等を次々と実現。

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(記事は2024年6月1日現在の情報に基づいています。)