『寄付白書2021』4年ぶりに発行 「遺贈寄付」へ関心が高まった背景にコロナ禍の影響も
日本の寄付の現状を分析する「寄付白書2021」(日本ファンドレイジング協会)が4年ぶりに、2021年12月に発行されました。東日本大震災以降の10年間の寄付をめぐる変化や、コロナ禍の影響などを分析する内容です。今回の白書からみえてきたことや今後寄付が広がるための課題は何かなどを、同協会代表理事の鵜尾雅隆さんに伺いました。
日本の寄付の現状を分析する「寄付白書2021」(日本ファンドレイジング協会)が4年ぶりに、2021年12月に発行されました。東日本大震災以降の10年間の寄付をめぐる変化や、コロナ禍の影響などを分析する内容です。今回の白書からみえてきたことや今後寄付が広がるための課題は何かなどを、同協会代表理事の鵜尾雅隆さんに伺いました。
――この10年の寄付の全体的な変化をどうみますか?
『寄付白書2021』でみえてきたのは、着実に寄付が広がっていること、特に遺贈寄付に対する関心が高まっているということです。コロナ禍では、インターネットで寄付を募るクラウドファンディングの活用などが顕著になっています。
つまり、全体のトレンドとして寄付が進んだと結論できます。クレジットカードを使った個人の寄付がこの10年間で5倍に伸びて全体の約25%を占めるようになったほか、クラウドファンディングの広がりもあり、多様化しました。遺贈寄付への関心が大きく高まっていることは特筆されます。「寄付といえば共同募金」などの街角の募金箱というイメージから、大きく変わりました。
「寄付元年」といわれる東日本大震災があった2011年の個人による寄付総額は1兆182億円でしたが、2020年は1兆2126億円。ただし、そのうちの6725億円は「ふるさと納税」のため、すべてを寄付と判断するかどうかは難しい部分があります。しかし、返礼品のためではないものもありますし、たとえ返礼品が入り口だったとしても寄付体験につながっていく可能性もあるため、簡単には「寄付でない」とはいえません。
――コロナ禍の影響についても分析していますね。
通常は高齢になるほど寄付する人が増えますが、コロナ関連では相対的に若者の方が寄付する率が高かったのです。あとクラウドファンディングの活用は特徴的でした。
コロナ禍では苦しむ人が広範に渡り、震災の時のような義援金はなく、寄付先を自分で選択しなければなりません。クラウドファンディングによってさまざまな分野への幅広い寄付先がありましたから、「自分ができることは何か」を真剣に考える必要があった。自分自身も不安な中で共感を示し、考えて選択し、寄付する人たちが多かったことは、非常に意味のある歴史的なことだと思います。
――遺贈寄付への関心が高まったとのことですが、なぜでしょう。
ひとつは「高齢化」と「生涯未婚率」の高まりです。もともと孤独な人の割合が高い日本ですが、「つながり」のない方が増え、財産をのこす相手がいない人が増えています。それ以上に、多額の国の借金を次の世代にのこしてしまうことに対して「それでいいのか」と感じ、次世代のために何かしたいと思う方が増えていると感じます。株や不動産の寄付をしやすくするなど社会的制度も徐々にですが改善されてきました。
遺贈寄付の規模は正確にはつかめないのですが、相続税申告時に遺贈などで控除申請した件数はこの10年で2倍弱、金額は2倍強になっています。いまマンスリーサポーターなどとして活動を支えている高齢者が遺贈寄付をする世代になっていくと、さらに大きな可能性があります。
ほかの国と比べて日本は、遺贈寄付への関心が一気に高まり広がっている印象です。急速な高齢化ということもあるのでしょうが、遺贈寄付に関しては世界のトップランナーになるのではないかと思っています。人生の集大成として次世代のためにというのは、日本の社会や文化にもマッチしているのではないでしょうか。
――そもそも、寄付が広がることはなぜ必要なのでしょう?
高度成長期には行政に任せておけばある程度うまくいっていたと思うのですが、低成長下で少子高齢化や財政赤字が膨らみ、行政だけでは解決できない問題が増え、NPOなどさまざまなプレーヤーを巻き込んで解決する必要が出てきました。そこに寄付の必要性があることが第一のポイントです。
2つ目は、寄付が潜在的な関係人口を増やす点です。たとえばNPOが1万円を100人から集めて事業をする場合、100人が関わるわけです。寄付を通じて関係が生まれ、そこから応援し続ける長期的な関係性が生まれる。これは本質的に非常に重要で、コロナ禍で選択して寄付する人が増えたことは、この点でとても意義があります。
――寄付の今後の展望と課題は?
いま話題の「新しい資本主義」に、寄付は非常に重要な構成要素です。寄付抜きでは新しい社会像を描けません。ですから政策的にも後押しが進み、広がっていくと思います。中でもやはり遺贈寄付は確実に増えます。
対名目GDP比でいうと日本の個人寄付額は0.23%で、英国が0.47%です。一見2倍程度ですが、ふるさと納税を除いた額で考えるとまだ約4倍の差です。ここがひとつの目安になるのではないでしょうか。
課題のひとつが、実は遺贈寄付にも関わるのですが、子どもたちへの寄付教育です。ここは、私も頑張りどころだと思っています。寄付先の選択は重要ですが、やはりなかなか選べない人はいます。遺贈したいと思っても「寄付先に悩む」という人も多いかと思います。そこで、次世代に寄付先や使い道の選択を委ねる形の「遺贈寄付」という選択肢が今後はあると考えています。そうした意味からも寄付教育は重要ですし、遺贈寄付との親和性も高いと思います。
税制面も課題です。不動産や株を寄付するには、まだ「みなし譲渡課税」という税制が大きな壁になっています。あとは、経営者や富裕層の間では広がっていますが、遺贈寄付を含めた寄付への関心の受け皿として、もっと簡単に自分で財団をつくれるようにしていくことです。
コロナ禍ではSNSでいわゆるリア充の情報を載せにくくなっています。その代わり「社会貢献をした」といった情報が増えている印象があります。以前はあまりいわなかったことを公言するようになっている。これが特にIT系経営者らの間で広がり、富裕層の間でも社会貢献や寄付がひとつの流れとして定着してきたと思います。
認定特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会代表理事。GSG 社会インパクト投資タスクフォース日本諮問委員会副委員長、大学院大学至善館特任教授なども務める。2009年、日本ファンドレイジング協会を創設し、2012年から現職。認定ファンドレイザー資格の創設、アジア最大のファンドレイジングの祭典「ファンドレイジング日本」の開催や寄付白書・社会投資市場形成に向けたロードマップの発行、子供向けの社会貢献教育の全国展開など、寄付・社会的投資促進への取り組みなどを進める。著書に「寄付をしようと思ったら読む本(共著)」「ファンドレイジングが社会を変える」「NPO実践マネジメント入門(共著)」「Global Fundraising(共著)」「寄付白書(共著)」「社会投資市場形成に向けたロードマップ(共著)」「社会的インパクトとは何か(監訳)」などがある。
(記事は2022年1月1日時点の情報に基づいています。)
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