賃貸物件を相続したら減価償却が必要 どう計算すべき? 物件のタイプごとに解説
親族から賃貸アパートを相続すると、故人の不動産事業をそのまま引き継ぐことがあります。このような場合、引き継いだ賃貸アパートの減価償却はどのようにすればいいのでしょうか。この記事では、相続により取得した不動産について、減価償却などの取り扱いを税理士が解説していきます。
親族から賃貸アパートを相続すると、故人の不動産事業をそのまま引き継ぐことがあります。このような場合、引き継いだ賃貸アパートの減価償却はどのようにすればいいのでしょうか。この記事では、相続により取得した不動産について、減価償却などの取り扱いを税理士が解説していきます。
建物や車などの固定資産といわれるものは、長期間にわたって使用され、時間の経過とともに価値が減っていきます。このような固定資産を「減価償却資産」といいます。
減価償却資産の場合、取得した年に取得価額を全額費用計上するのではなく、使用する期間にわたって毎年少しずつ費用化していきます。
このように、毎期一定の方法で規則的に費用化していく会計処理方法を「減価償却」といいます。
不動産には、大きく分けて土地と建物があります。建物については、時間の経過とともに価値が減っていくため、取得価額を毎期、減価償却し費用化していきます。
一方、土地については「時間の経過や使用によって価値が減るものではない」という考え方から減価償却資産には該当せず、減価償却をしません。
減価償却の計算方法には、主に定額法・定率法の2つがあります。
定額法とは、建物の取得価額に一定の償却率を乗じて計算する方法で、算式で表すと以下のようになります。
定額法の減価償却費 = 取得価額 × 償却率
定額法では、毎年の減価償却費が同額になります。
定率法は、建物の取得価額から前年度までの減価償却費の累計額を差し引いた金額に、一定の償却率を乗じて計算する方法です。算式で表すと以下のようになります。
定率法の減価償却費 = (取得価額 - 前年までの減価償却費累計額) × 償却率
定率法では、取得した当初の減価償却費が多く計上され、その後年々、減価償却費が下がっていく特徴があります。
建物の減価償却方法については、過去に大きな税制改正があり、取得した時期によって償却方法が異なります。
1998年(平成10年)3月31日以前に取得した建物は、定額法・定率法のいずれかを選択することができました。しかし、1998年(平成10年)4月1日以後に取得した建物の償却方法は、定額法のみとなったのです。
次いで、平成19年税制改正において、2007年(平成19年)3月31日以前に取得した減価償却資産の定額法や定率法のことを「旧定額法」「旧定率法」とし、2007年(平成19年)4月1日以後に取得する減価償却資産の償却方法のことを「定額法」「定率法」とすることとしました。この税制改正によって、減価償却費の償却方法そのものが変わったのです。
旧定額法の減価償却の計算方法は、以下の算式となります。
旧定額法の減価償却費 = (取得価額 - 取得価額 × 10% ) × 旧定額法の償却率
減価償却の計算には、取得価額・耐用年数(償却率)の2つの要素が必要になります。
1.取得価額
取得価額は減価償却計算の基礎となるものです。一般的には、売買契約書に記載された建物の売買金額となります。
2-1.耐用年数
耐用年数とは、減価償却資産の償却年数を表すものです。
たとえば、ある資産の耐用年数が10年の場合、その資産の価値は10年間使えばなくなるものと考えます。この場合、耐用年数を10年とし、10年間で減価償却していきます。
建物の耐用年数は、構造や用途、細目によって異なります。国税庁ウェブサイトに掲載されている「法定耐用年数一覧」から、対象の不動産の法定耐用年数が確認可能です。
主な法定耐用年数は以下の通りです。
2-2.償却率
耐用年数を把握できたら、次に国税庁のウェブサイトに掲載されている「減価償却資産の償却率表」から償却率を求めます。
償却率は、建物の取得日が2007年(平成19年)3月31日以前か2007年(平成19年)4月1日以降かで異なるので注意が必要です。
2007年(平成19年)4月1日以降の償却率は、償却率表から以下のように求めることができます。
建物の取得価額と償却率が把握できたら、減価償却費を計算します。減価償却費は、以下の算式によって求めることができます。
定額法:取得価額 × 償却率
・計算例
建物の取得価額:3000万円
取得日:2020年(令和2年)1月1日
建物構造:鉄筋鉄骨コンクリート
用途:住居用
この場合、建物耐用年数は「法定耐用年数一覧」から47年となり、償却率は「償却率表」から0.022とわかります。
上の算式に当てはめると、減価償却費は3000万円 × 0.022 = 66万円となります。
アパートやマンションを経営することで不動産収入を得た場合は、不動産所得を申告する必要があります。
この際、建物の減価償却費は事業経費に計上することができます。減価償却費は、前述の通り取得時期に応じた計算方法で算出してください。
アパートや賃貸マンションを売却すると、譲渡所得の計算が必要になります。譲渡所得は以下の計算式によって算出します。
譲渡価額 -(取得費 + 譲渡費用)= 課税譲渡所得金額
この算式における建物の「取得費」を求めるとき、減価償却の計算が必要になります。譲渡所得計算の際の取得費を求める方法は、以下のような手順です。
1.売却した年の1月1日現在の未償却残高を求める
未償却残高 = 取得価額 - 減価償却累計額
2.売却した年の1月1日から売却日までの減価償却費の月割り計算をする
減価償却費の月割り計算
定額法による減価償却費 ×(1月1日から売却日までの月数÷12)
3.取得費を求める
取得費 = 1.-2.
年の途中で売却する場合は、2.の処理を忘れやすいので注意が必要です。
自宅に住んでいる間は、減価償却を意識する必要はありません。しかし、自宅を売却する場合には譲渡所得の計算が必要になるため、そこで減価償却の計算が必要になります。
自宅を売却したときの譲渡所得の計算方法は、前述した賃貸不動産の計算方法と同じで、取得費の計算において減価償却費が関係してきます。
ただし、自宅などの非事業用不動産は建物へのダメージも少ないと考え、税務上、耐用年数が1.5倍になるという特殊な考え方をします。具体的には次のようになります。
自宅の耐用年数に対する償却率は、それぞれ次のようになります。
鉄筋鉄骨コンクリート造:0.015
木造:0.031
なお、経過年数は1年単位で計算します。所有期間6カ月以上の場合は年数が繰り上げとなり、6カ月未満は切捨てて計算します。
相続により賃貸アパートなどの減価償却資産を引き継ぐときは、減価償却の方法について理解しておかなければなりません。特に、旧定額法や旧定率法が適用されていた賃貸不動産を引き継ぐ場合は、減価償却の方法を間違えないようにしましょう。
一般の方にとっては、少しルールが複雑かもしれません。難しいと感じた場合は、専門家である税理士に相談することも検討してみてください。
(記事は2021年6月1日時点の情報に基づいています)