目次

  1. 1. なぜ不動産相続はもめるのか? 現場で起きているトラブル事例
  2. 2. 売れない「負動産」の落とし穴|安易な相続放棄はNG
  3. 3. 家庭のニーズに合った分割方法を選択することが大切
  4. 4. 最大の敵は「親族間の仲の悪さ」ではなく「時間切れ」
  5. 5. 信頼できる専門家選びのコツ|相談者自身の知識も求められる

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ーーそもそも、なぜ不動産の相続は現金や預貯金と比べてトラブルになりやすいのでしょうか?

不動産の相続がもめやすい原因は、不動産が物理的に切り分けられないものである、ということです。現金であれば1円単位できれいに分けられますが、不動産は均等に分け合うことが難しい財産です。

また、不動産には複数の価格が存在します。「固定資産税評価額」や「実勢価格(時価)」など評価方法がいくつもあり、採用する評価方法によって評価額が大きく変わることもあります。このように、価格の正解が一つではないこともトラブルの要因となります。

ーー具体的によくあるトラブル事例を教えてください。

典型的なトラブルは、共有名義に関するものです。「誰が不動産を引き継ぐか決められないから、とりあえず相続人全員の共有にしておこう」と安易に決めてしまうケースが多いです。しかし、共有名義の不動産を売却する際には、共有者全員の同意が必要になるため、共有者が多いほど売却が難しくなります。

また、亡くなった親の面倒を見ていた相続人がいるケースでもトラブルが起こりやすいです。「自分はずっと実家で親の面倒を見てきたから、実家を含め多くの遺産をもらうべきだ」と主張する人がいます。法律上、亡くなった人の生前に介護など特別な貢献をした相続人は、他の相続人よりも多くの遺産を受け取れる制度があります。これを「寄与分」と言います。

しかし、寄与分を正確に計算し、他の相続人に納得してもらうのは非常に難しい問題です。さらに、離れて暮らすきょうだいから「親と一緒に住んでいたから、親の預貯金を使い込んでいたのでは?」と疑われるトラブルに発展することもあります。

ーー事業承継に関連した相談も多いとのことですが、資産が多い家庭や事業を営んでいる家庭ならではのトラブルはありますか?

資産が多い家庭では、節税対策としてマンションなどを購入するケースでトラブルが起こりやすいです。不動産を購入して手元の現金が減ったことで、いざ相続が発生したときに相続税の納税資金が用意できず、結局その家を慌てて売却しなければならなくなるという本末転倒な事態が起きてしまいます。

また、亡くなった人が事業をしていた場合は、会社の経営権と個人の財産を完全に切り離して考える必要があります。たとえば、亡くなった親の事業を長男が承継する場合、会社の株式や事業用資産は長男が相続することになります。しかし、その株式や不動産の評価額が高ければ、ほかの相続人から「遺留分(最低限補償されている遺産の取り分)を侵害している」と主張され、事業の継続自体が危ぶまれるトラブルに発展することがあります。

事業承継が絡む相続では、税金や法律、経営など高度な専門知識が不可欠です。早い段階で税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

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ーー地方の山林や農地など、売れない不動産(いわゆる負動産)を相続する際の注意点や対処法はありますか?

誰も相続したがらない不動産や売れない不動産は、管理の手間や費用の問題でトラブルが起こりやすいです。

最有力な選択肢は「相続土地国庫帰属制度」の利用です。一定の条件を満たせば、相続などによって取得した不要な土地を国に引き取ってもらうことができる制度です。ただし条件が厳しく、引き取ってもらうための負担金も納めなければならないため、金銭的な負担は避けられません。

可能であれば、隣の土地の持ち主に無償で引き取ってもらう(贈与する)のが現実的な方法です。相続人の負担にならないよう、生前のうちから手放しておくのが理想です。

ーー「いらない土地なら相続放棄をすればいい」と考える人も多そうです。

安易に相続放棄を選択するのは危険です。

相続放棄をしても、その不動産の管理者が決まるまでは、放棄したはずの相続人にも「保存義務」が残る場合があります。たとえば、空き家になっていて雑草が生い茂っていたり、塀が崩れて通行人にけがをさせる危険があったりする場合には、修繕や管理を行う義務を負い続けるのです。

さらに、相続放棄をすると、預貯金などのプラスの財産も一切受け取ることができません。山林や農地がいらないからという理由だけで安易に相続放棄を選ぶのは、決して得策とは言えません。

このような不動産を誰がどのように管理していくか、手放す方法があるかどうかの判断は、早い段階で専門家を入れて話し合うべき問題です。

司法書士の加陽麻里布さん=同事務所提供

ーー相続登記が義務化されたものの、分け方が決まらず期限内に手続きができないケースもあると思います。相続登記を放置するリスクはありますか?

一つは、過料というペナルティが科されることです。相続登記の義務化により、不動産を相続したことを知った日から3年の期限を過ぎると、10万円以下の過料(行政上のペナルティ)が科される可能性があります。

遺産分割がまとまらず期限内に相続登記ができない場合は、法務局で「相続人申告登記」を行うことで相続登記の義務を履行したものとみなされ、過料を免れることができます。

二つ目のリスクは、不動産の共有者が雪だるま式に増えてしまうことです。相続登記を行わず、遺産分割もしないまま放置すると、相続人全員の共有状態が続きます。1代目の相続時に相続登記を行わず放置した結果、その相続人にさらに相続(数次相続)が発生し、どんどん共有者が枝分かれして増えていきます。最終的には顔も知らないような遠い親戚同士が共有者となる状態になります。

そんな中で相続人の一部が認知症になって判断能力を失ったり、行方不明になって連絡が取れなくなったりすると、いざ不動産の活用や売却を考えたときに共有者全員の合意が得られず、全く手がつけられなくなってしまいます。

ーー不動産を共有状態にしておくのは危険ですね。共有以外にはどのような分け方があるのでしょうか?

不動産の相続でよく使われるのが「代償分割」と「換価分割」の二つです。

代償分割とは、相続人の一人が不動産を丸ごと引き継ぐ代わりに、ほかの相続人に対して代償金を支払う方法です。しかし、この方法は不動産の評価をめぐる対立に注意が必要です。

不動産を相続する側は「不動産の評価額を低く見積もって、支払う代償金を少なくしたい」と考えます。逆に、代償金を受け取る側は「不動産を高く評価して、受け取る代償金を増やしたい」と考えるため、双方の利益が対立してしまいます。不動産鑑定士に依頼して適正な時価を出してもらうことで、納得感を得られる可能性が高まります。

一方、換価分割とは、不動産を売却して現金化し、そのお金を相続割合に応じて分ける方法です。1円単位で公平に分けられる点がメリットです。ただし「住み慣れた実家にこのまま住み続けたい」というニーズを持つ相続人がいる場合には、簡単に売却の合意が得られないという難しさがあります。

代償分割と換価分割のどちらがよいかは、家庭の状況によって異なります。相続人同士でニーズが異なるなどトラブルになる要素がある場合は、早めに専門家に相談してください。

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ーー不動産相続でもめないために、生前のうちにできる対策を教えてください。

財産を残す側がやるべきことは、財産目録と遺言書の作成です。遺言書がある場合は、原則として遺言内容のとおりに相続手続きが進められます。相続人全員で遺産の分け方を話し合う必要がないため、トラブルになる可能性を軽減できます。

また、主な財産が不動産のみで、相続税が発生する可能性がある場合には、生命保険の活用も有効です。生命保険金は受け取り人固有の財産となるため、原則として遺産分割協議の対象にはなりません。保険金を受け取った人は、納税資金や代償分割のための現金をスムーズに用意できます。

一方、財産をもらう側(相続人)としては、親が元気なうちに相続についてしっかり話し合うことが大切です。「親が認知症になった場合に備えてどのような対策をとるべきか」「実家は誰に引き継いでほしいか」など、家族間ですり合わせをしておきましょう。

ーー「まだ元気だから大丈夫」と思ってしまいがちですが、元気なうちから対策をとることが大事なんですね。

実は、相続における最大の敵は「親族間の仲の悪さ」ではなく「時間切れ」です。「まだ元気だから心配ない」「そのうちやろう」と先延ばしにしているうちに、突然病気になってしまったり、亡くなってしまう可能性はゼロではありません。そうなってからでは、できる対策は限られてしまいます。時間切れになる前に、財産の整理や家族間での情報共有を進めておくべきです。

ーー相続手続きを専門家に依頼するメリットは何でしょうか?

専門家に依頼するメリットの一つは、手間の削減です。相続は不動産の登記だけでなく、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍収集、銀行口座や貸金庫の解約など、やるべき手続きが多くあります。役所や銀行は平日しか開いていないため、仕事をしている人が自分でやろうとすると大変な労力がかかります。専門家に依頼すれば、必要に応じて他士業とも連携しながら、これらをまとめてサポートしてもらえます。

また、専門家は親族間のクッションとしての役割もあります。当事者同士で直接話し合うと、どうしても不満が出て感情的な対立が発生してしまいがちです。第三者である専門家が間に入ることで、冷静かつスムーズに話し合いがまとまるケースが多いです。費用はかかりますが、それ以上のメリットは確実にあります。

ーー最後に、信頼できる専門家(税理士、弁護士、司法書士など)を選ぶ際のポイントを教えてください。

一番重要なのは、専門家との相性です。実は、専門家が原因で親族間のもめごとに発展するケースもあります。相続手続きは非常に繊細で、親族間の関係性に配慮しながら慎重に進めなければならない場面が多々あります。家族の事情をしっかりヒアリングし、相続人全員が納得できる形を一緒に模索してくれる専門家を見つけることが大切です。

そのためには、相談者自身も専門家に任せきりにするのではなく、基本的な知識を持ちながら一緒に考えていく姿勢が大切です。例えば「長男に事業を継がせるなら、他のきょうだいにはどの財産を残すか」といった点について、あらかじめ家族の考えや希望を整理しておくこと。そのうえで、専門家のアドバイスが自分たちにとって最適かどうかを判断する必要があります。

「よくわからないから」と専門家に丸投げするのではなく、自分たちも勉強しながら納得のいく相続を一緒に作り上げようとする姿勢が、トラブルのない相続への一番の近道だと思います。

司法書士法人永田町事務所

2018年9月設立。登記手続きや組織再編、ファンド組成などの業務を幅広く取り扱う。クライアントファーストを理念に掲げ、法律手続きを必要とする相談者のニーズに合わせて、迅速かつ丁寧なサービス提供を心がけている。相続業務では相続登記をはじめ、相続人調査や遺言書作成などの手続きにも対応している。

(記事は2026年7月1日時点の情報に基づいています)

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