賃貸併用住宅の最適な間取りは? 快適性と収益性を兼ね備えた設計についてプロが解説
賃貸併用住宅に興味があるものの、自分の土地ではどの間取りが適しているのかがわからずイメージが浮かばない、という人も多いと思います。坪数別のおすすめ間取りやおさえておくべきポイントなどについて、不動産業界歴20年の宅建士がわかりやすく解説します。
賃貸併用住宅に興味があるものの、自分の土地ではどの間取りが適しているのかがわからずイメージが浮かばない、という人も多いと思います。坪数別のおすすめ間取りやおさえておくべきポイントなどについて、不動産業界歴20年の宅建士がわかりやすく解説します。
目次
最初に、賃貸併用住宅の間取りの参考例を坪数別にご紹介します。
・3階建て、上下タイプ、自宅面積率約64%
・建築面積50.3㎡
・延べ床面積120.9㎡
賃貸併用住宅は、20坪という小さな土地でも建築できます。建築面積(実際に土地に立てられる建物の面積。詳細後述)は限られるものの、3階建てにすれば、2階と3階に自宅部分を確保しつつ、1階で複数の部屋を貸し出すことが可能です。
・2階建て、縦割りタイプ、自宅面積率50%
・建築面積79㎡
・延べ床面積148㎡
30坪になると、賃貸側の部屋を自宅と同じ間取りにした物件が建てやすくなります。1階もしくは2階より上を自宅とする場合、どうしても騒音問題が発生します。気になる人は、参考例のような間取りを検討してみましょう。
・3階建て、上下タイプ、自宅面積率約67%
・建築面積90.1㎡
・延べ床面積209.2㎡
40坪の場合は、ワンルームや1Kを複数設置して収益性を上げつつ、広々とした自宅を建ててゆっくり過ごすことが可能になります。一方で、余裕が大きくあるわけではないので、賃貸部分にファミリー世帯向けの部屋を複数作りたい場合、自宅部分の間取りを工夫しないと窮屈に感じるときがあります。
・3階建て、上下タイプ、自宅面積率約51%
・建築面積112.8㎡
・延べ床面積290.3㎡
50坪になると、自宅部分を十分に広くしつつ、2階建ての賃貸物件を複数設けられます。ファミリー向けの部屋を複数作ることも可能です。ただし選択肢が増える分、迷う部分も増えてくるため、まずは「広い家に住みながら賃貸したい」「収益性を上げたい」など目的を明確にすることが重要です。
・3階建て、縦割りタイプ、自宅面積率約53%
・建築面積100.8㎡
・延べ床面積280.1㎡
60坪の場合、十分な広さの自宅と、ワンルーム・1K・1DK・1LDKなどさまざまな間取りの賃貸物件を用意できます。二世帯住宅にしたり、エレベーターを設けたり、吹き抜けを作ったりなど、さまざまな工夫がしやすい大きさなので、他の間取りも見ながらイメージを膨らませてみましょう。
この章では、賃貸併用住宅の間取りを考えるときにおさえておくべき四つのポイントについてわかりやすく解説します。
前章で見てきたように、賃貸併用住宅と一言にいっても、さまざまなタイプがあります。間取りを考えるときはどのようなタイプがあるのか把握し、違いを知ることが大切です。
それぞれの「メリット」「デメリット」「向いている人」を項目別に解説します。
①上下タイプ
上下タイプは収益性を重視したい人に向いている間取りです。別名「横割りタイプ」とも呼ばれ、オーナーの自宅部分と賃貸部分を階によって分けるタイプとなります。
フロア全てを賃貸スペースに利用できるため、スペースに余裕があれば賃貸部分の戸数を増やして収益性を上げることが可能です。
上下タイプには1階を自宅部分とする場合と2階から上を自宅部分とする場合があり、それぞれメリット・デメリットが異なります。
【1階を自宅部分にする場合】
<メリット>
・庭を作れる
・駐車場や駐輪場を作れる
・バリアフリーにしておけば高齢になってもそのまま住み続けられる
・2階から上の階は賃貸需要が高く、1階よりも高い家賃を設定できるため収益性が高い
<デメリット>
・2階の入居者の生活音が気になる
・防犯面に不安がある
【2階から上を自宅部分にする場合】
<メリット>
・日当たりが良い
・眺望が良い
・風通しが良い
・最上階の場合は上階からの騒音トラブルがない
<デメリット>
・下の階の入居者に生活音が響いていないか常に気を遣う必要がある
・高齢者や小さな子どもがいる家庭では、移動が大変な場合も多い
②縦割りタイプ
縦割りタイプは、プライバシーを重視したい人に向いている間取りです。
建物を縦に割るようにして、オーナーの自宅部分と賃貸部分を左右に分けるタイプで、防音対策の面で優れています。
縦割りタイプのメリット・デメリットは以下の通りです。
<メリット>
・各戸に階段を設置することで、接触する機会を減らせる
・玄関の位置や開閉の向きを工夫すれば、プライバシーを高く保てる
・「上に住む人の生活音がうるさい」「下に住む入居者から音に関するクレームが入る」など上下階の騒音トラブルが生じにくい
・2階建ての家に住めるという感覚を持つことができる
<デメリット>
・室内に階段を設置する必要があるため、スペースが一部削られる
・壁に防音対策をしないと隣の生活音が気になることもある
③マンションタイプ
マンションタイプは、 都市部にある地価の高い土地を所有していて収益性を重視したい人に向いている間取りです。
㋑「最上階をオーナーの自宅にして、下の階を賃貸として貸し出すタイプ」と、㋺「部屋の広さや構造は全て同じで、他の入居者と同様の1室をオーナーの自宅とするタイプ」の2パターンがあります。
建物構造は、鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)が一般的です。
マンションタイプには、次のようなメリット・デメリットがあります。
<メリット>
・賃貸として貸し出す部屋数が多いため、安定した収益を得ることができる
・防音や防火に優れた構造のため、家賃を高く設定することが可能
・㋺のタイプは他のマンションと同様の構造であるため売却しやすい
<デメリット>
・住宅ローンが使えない
・投資用ローンは審査が厳しく、金利が高い
・建築費や建物維持費などが他の併用住宅のタイプと比較して高い
・㋑のタイプは不動産売却市場では流動性が低いため売却しにくい
賃貸併用住宅の間取りは、収益性と快適性のバランスをとることがとても重要です。
コストを抑えることは大切ですが、収益性を追求しすぎると快適性が減り、快適性を追求しすぎると収益性が減ってしまい、結局両方とも不満足な間取りになります。
例えば、
・建物や設備の仕様を落としすぎると、不便に感じる、安っぽく感じるなどの理由から入居者が確保しづらくなります。
・ローコスト化の目的で戸数を減らすと、空室となったときの家賃収入のロスの割合が大きくなります。例えば同じ100万円の家賃収入を得ていたとしても、10部屋の場合は1部屋あたり10万円なので空室一つにつき10万円のロスで済みますが、5部屋の場合は空室一つにつき20万円のロスが発生します。
・オーナーの自宅部分の仕様を下げると、自宅部分の快適性が減り、せっかくの賃貸併用住宅建築がつまらないものとなってしまいます。
賃貸併用住宅の建築を検討する際には、実績のある会社に相談をしながら、収益性と快適性のバランスがとれた間取りを考えるということが、とても重要であると言えます。
賃貸併用住宅の間取りを考える際は、住宅ローンの条件を確認しましょう。
賃貸併用住宅では、「自宅部分の床面積が全体の50%以上」を満たせば、住宅ローンを利用した借入をすることが可能です。
投資用物件を目的とする場合、通常は不動産投資用の事業用ローンやアパートローンを使いますが、住宅ローンを利用できれば、長期かつ低金利でローンを組むことができます。
アパートローンの融資期間は建物の耐用年数以内(木造であれば22年、骨格材肉厚が3mm以下の軽量鉄骨造であれば19年など)で2〜5%程度の変動金利などが一般的ですが、住宅ローンは35年固定でも金利1%前後です。
また、アパートローンは賃貸物件への事業用目的の融資ですので、審査は住宅ローンと比べてとても厳しいものとなっています。
賃貸併用住宅の間取りは、床面積の割合や住宅ローンの適用範囲を確認した上で考えることが必須となります。
賃貸併用住宅の間取りを考えるときは、「建ぺい率」と「容積率」という制限を詳しく理解しておくことも必須です。
土地の建ぺい率と容積率は各自治体によって割合が異なります。都市計画の見直しなどで数値が変更されている場合がありますので、自治体の都市計画課などに問い合わせをして最新の正確な情報を手に入れましょう。また、高さ制限がある土地もありますので、あわせて確認をしておく必要があります。
なお、建ぺい率とは、敷地面積に対して建築できる面積の割合のことを指します。
<建ぺい率の計算式>
建ぺい率(%)= 建築面積 ÷ 敷地面積×100
例えば、敷地面積100㎡・建ぺい率が60%の場合、60㎡まで建物を建てられるということになります。建ぺい率の割合が大きいほど、土地を有効に活用できます。
容積率とは、敷地面積に対する建築物の延床面積の割合のことです。その土地に何階建ての建物を建てられるかの基準となります。
<容積率の計算式>
容積率(%)= 延べ床面積 ÷ 敷地面積 × 100
容積率が高いほど階数の高い建物を建てることが可能です。
建物を建てるときは、この建ぺい率と容積率の組み合わせで考えます。例えば、敷地面積100㎡・建ぺい率60%・容積率200%の土地の場合、建築面積と延べ床面積は以下のようになります。
<敷地面積100㎡・建ぺい率60%・容積率200%のときの建築面積と延べ床面積>
建築面積 = 100㎡ × 60% = 60㎡
延べ床面積=100㎡ × 200% = 200㎡
自宅部分を60㎡の2LDKで考えている場合では、200㎡ ÷ 60㎡ = 3.333ですので、3階建ての建物が建てられるという計算です。
実際は共有通路や階段スペースなども必要ですので余裕を持たせた数字にしておき、自宅部分の比率なども考慮しながら賃貸部分の具体的なプランを決めていきます。
上記からわかるように、建ぺい率や容積率が異なると、同じ敷地面積だとしても建てられる建物が違ってきます。理想の間取りを手に入れるために詳しく理解しておきましょう。
賃貸併用住宅は、住宅ローンを使える、家賃収入でローンを返済できるというメリットがある一方で、入居者とトラブルになってしまった、借り手がなかなか見つからないなどのデメリットもいくつかあります。
この章では、デメリットとなっている点を克服し、収益性と快適性を兼ね備えた間取りにするためには何をしたら良いかということについて、わかりやすく解説します。
前述したように、防犯対策には「縦割りタイプ」が有効ですが、同時に防音対策を心がけた間取り設計も重要なポイントです。
入居中の生活音は人によって感じ方が異なるため、入居者とのトラブルにつながるケースは珍しくありません。
防音対策をするときは、まずトラブルとなる生活音には具体的にどんなものがあるのか知っておくことが大切です。主に以下が挙げられます。
・ドアを開け閉めする音
・ドスドスと響く歩く時の足音
・物を落とす音
・大声で話す電話
・テレビの大きい音量
・洗濯機や掃除機などを使用時の音
・排水を流す音
防音対策として、次のような間取りを検討してみましょう。
なお、間取りとは直接関係ありませんが、入居者の音を遮断できるような材質の壁や床や天井にするのも有効です。
また、もし「縦割りタイプ」ではなく、「上下タイプ」の間取りにどうしてもしたい場合は、上下階の床を伝わってくる音に関しては間取りだけでは制御できないため、以下の対策もあわせて取ってみましょう。
防音対策は快適性だけでなく、空室などによって収益にも大きく影響しますので徹底的に行うことが大切です。
入居者とのストレスを軽減するため、お互いのプライバシーに配慮した間取りにしましょう。
対応策としては、
などが考えられます。
この他にも、「居住スペースが見えないように玄関や庭に植栽をして目隠しをする」「設備故障・クレーム・鍵の紛失などの管理対応は管理会社のみを窓口とする」「自宅部分への入口には自宅専用の門や外構を作って見分けがつきやすくする」などの対策もありますので、あわせて検討することをおすすめします。
賃貸部分は、エリアやターゲットのニーズに対応した間取りにすることも重要です。
例えば、単身世帯の需要がないエリアに単身用の間取り、大学生や専門学校の学生が多いエリアにファミリー用の間取りの部屋を作っても、空室は埋まらず収益性は上がりません。
間取りを考えるときは、以下を意識するとよいでしょう。
その上で、ターゲットとなる入居者のニーズも考慮することが重要です。例えば、単身世帯は一般的に、1Kというコンパクトな間取りの中にも、デットスペースに収納棚を多く作るなどの機能性が高い設計を好みます。一方、ファミリーは収納スペースが充実した間取りを選ぶ傾向にあります。
これらもあわせて考えておくと、収益を安定して得られる可能性がより高まります。
賃貸併用住宅の間取りを考えるときは、入居者に人気の高い外観・内装・設備を選びましょう。お洒落な内装や人気の設備などをそろえておくことにより、成約率を上げ、退去率を下げる効果が期待できます。
①外観のポイント
一見すると「オーナーの所有する一軒家である」と見られてしまう外観は、入居者には好まれませんので避けるべきです。通常のマンションやアパートのように、ひと目で賃貸住宅とわかるような外観にしましょう。
②内装のポイント
例えば、以下のような内装にすると、成約率が高くなります。
ハウスメーカーなどのホームページにある最新の施工例は、賃貸トレンドなどのイメージがわきやすいので参考にしてみるのも良い方法です。
③設備のポイント
設備は前述したように、ターゲットのニーズに合わせることが重要です。
自分のターゲットがどのような設備を好むのか検討がつかない場合は、「SUUMO」や「HOME'S」などの不動産ポータルサイトを利用してみましょう。自分の物件の近所の賃貸物件を数十件選んで分析をしてみると、近隣地域で標準となっている設備がわかります。また、同時に、その地域の家賃相場も調べることが可能です。
また、最近では、入居者に人気の設備ランキングなどを紹介する記事も充実しています。入居者の立場に立って確認をしたいときの参考にしてみてください。
設備を考えるときの注意点としては、値段で設備を選ばないことです。価格が安いだけの設備を購入すると、すぐに故障して買い替えが必要になってしまうというケースもよくあります。アフター修理対応などが可能な製品を選ぶようにしましょう。
賃貸併用住宅の間取りを決める上で、収益性と快適性の両方を実現するための重要なポイントは、複数の業者が立てたプランをしっかりと比較することです。
各社それぞれの得意分野やプランの立て方などが異なります。最適なプランを選ぶためには、以下のポイントを見るようにしましょう。
①賃貸併用物件の実績があるか
そもそも賃貸併用物件の販売や建築の実績があるかチェックしましょう。特に実績が豊富な業者は、土地の広さに応じた最適な間取りを熟知しています。コストを抑え、収益性を高めるために必要な工夫に関する情報も豊富です。
②プランを立てるときに市場調査をしっかりしてくれるか
プランを立てるときに、地元の不動産賃貸仲介業者と連携を取ってくる業者か確認しましょう。こうした業者は、エリアの特性や入居者ニーズ、正確な家賃相場などの市場調査をしっかりと行った上で、間取りのアドバイスをしてくれることもあります。
③具体的な収支プランになっているか
作成した間取りをもとに提示された収支プランが、具体的なものか忘れずに見ることも大切です。数字を読み間違えてスタートすると、赤字経営にもなりかねません。
なお、複数の業者からプランを取り寄せると、各社が競って最良かつリーズナブルなプランを出してくるため、メリットは大きいと言えます。
業者を選ぶときは、インターネット上で土地活用プランの一括請求サービスを行うと、各社へ訪問をして相談をする手間が省けますので便利です。
まずは賃貸併用住宅の建築実績が豊富な業者にいろいろ相談をして不安を解消し、明るい賃貸併用住宅ライフを満喫する未来を実現しましょう。
一棟マンションの賃貸部分のうちの1室を自宅にする間取りです。住宅ローンは利用できませんが、賃貸物件の総戸数が多いため、空室が出た場合でも高い収益性と安定した家賃収入が望めます。
3階建の建物で最上階と2階の半分をオーナーの自宅、1階ワンフロアと2階の残りの部分を賃貸のスペースにする間取りなどが考えられます。
オーナーは最上階をワンフロア全て利用できるため、プライベートな空間、眺望、日当たりなどが得られて快適に暮らすことができ、入居者の生活音に悩まされずに済みます。
単身タイプのほうがファミリータイプよりも賃貸需要があるため、収益性が高い傾向にあります。
そのため、単身タイプよりファミリータイプの方が、建築にかかるコストを抑えることができますが、ファミリータイプ2室にするより単身タイプ4室にした方が収益性は高くなります。
しかし、ファミリータイプは単身タイプよりも平均入居年数が長いので、退室時にオーナーが負担するコストが単身タイプよりも少ないことがしばしばあります。そのため、実際の諸条件を加味しながら、慎重に計算して検討をすることが大切です。
この記事では、坪数別のおすすめ間取りやおさえておくべきポイントや、デメリットを克服するためにどんな間取りにしたら良いのかなどについて、詳しく解説しました。
賃貸併用住宅を建てて成功するための秘訣は、実績のある業者を数多く徹底的に比較をして、自分の土地に合った最適なプランを選ぶことです。
インターネット上で、土地活用一括プラン請求サービスを利用すると、各社へ訪問をして相談をする手間が省けてとても便利ですので、参考までに一度試してみてはいかがでしょうか?
(記事は2023年12月1日時点の情報に基づいています)