事業用定期借地権による土地活用のメリットとデメリットを解説
借地でも事業用定期借地権は、地代も比較的高く、借地期間も短いことから土地活用としては魅力的な選択肢といえます。事業用定期借地権は、立地が良い場所でないと申し込みがなかなかありませんが、申し出があれば前向きに検討したいところです。この記事では「事業用定期借地権」について不動産鑑定士が解説します。
借地でも事業用定期借地権は、地代も比較的高く、借地期間も短いことから土地活用としては魅力的な選択肢といえます。事業用定期借地権は、立地が良い場所でないと申し込みがなかなかありませんが、申し出があれば前向きに検討したいところです。この記事では「事業用定期借地権」について不動産鑑定士が解説します。
事業用定期借地権とは、専ら事業の用に供する建物の所有を目的とした定期借地権のことです。専ら事業の用に供する建物とは、居住用以外の建物を指し、例えば店舗や事務所、工場、ホテル、倉庫といった建物が該当します。
借地権には、大きく「普通借地権」と「定期借地権」の二つに分類されます。
普通借地権とは借主が更新を希望すれば更新ができる契約で、定期借地権とは契約期間満了時に確実に借地契約が終了する契約のことです。普通借地権は、一度土地を貸してしまうと返してもらうことがほぼ不可能であり、昔から「借地をしたら土地をくれてやったようなものと同じ」と言われることもあります。一方で定期借地権であれば契約期間満了時に借地契約を確実に終了させることができるため、安心して土地を貸せるという点がメリットです。
定期借地権は、「一般定期借地権」と「建物譲渡特約付借地権」、「事業用定期借地権」の3種類に分けられます。
それぞれの借地権の特徴を示すと下表の通りです。
事業用定期借地権には、契約期間が「10年以上30年未満」とする場合と、「30年以上50年未満」とする場合があります。これらは借地借家法23条の「2項」と「1項」とそれぞれ規定されており、内容的にはほとんど同じです。ただし、一部の内容が特約をしなくても適用されるのか、特約をすれば適用されるかという違いがあります。
また、事業用定期借地権だけは他の借地権と異なり、必ず「公正証書」で契約しなければならないことになっています。一般定期借地権は、公正証書「等」となっており公正証書以外で契約しても有効です。それに対して、事業用定期借地権の契約だけは「公正証書」であることが必要であり、公正証書以外で契約すると無効となります。
事業用定期借地権のメリットについて解説します。
事業用定期借地権のメリットは、比較的割高な地代が得られるという点になります。事業用定期借地権の年間地代は、相続税路線価で求めた土地価格の6%とすることが多いようです。
事業用定期借地権の年間地代 = 相続税路線価による土地価格 × 6%
本来は「更地価格の6%」というのが相当地代とされています。相当地代とは、「地代の定価」というような意味です。ただし地代を決定するにあたり、更地価格をわざわざ求めることは手間がかかるため、実務上は簡便に相続税路線価を用いることが一般的となっています。
事業用定期借地権が成立する土地は立地の良い場所が多いので、相続税路線価も高く、計算で算出される地代も比較的高くなります。
事業用定期借地権は、借地人(土地を借りる人)が借地上で収益事業を行うことから、借地人の地代支払い能力も高いことが一般的です。そのため、事業用定期借地権は他の借地と比較すると地代が高くなる傾向にあります。
事業用定期借地権のメリットは建物投資が不要となるという点です。
地主は建物を建てる必要もなく、何も投資をせずにいきなりお金だけをもらうことができます。建物を借地人(借主)が建てた場合、建物所有者は借地人(借主)となりますので、将来、建物が古くなったとしても修繕は借地人が行うことになります。借入金返済リスクもなく、将来の大規模修繕等の必要もないことから、極めて低いリスクで長期間安定した収益を得ることができるのです。
借地人(借主)の撤退リスクが低い点も事業用定期借地権のメリットです。
借地人は、わざわざ土地を借りて、さらに何億円などの多額の建物投資まで行います。建物を建てた借地人は投資を回収する必要があるため、多少のことがあっても簡単には撤退できません。相当の覚悟をもって土地を借りることになりますので、基本的には撤退リスクは低いと考えられています。
事業用定期借地権のデメリットについて解説します。
地代は家賃に比べると収入は少ない点がデメリットです。
地代は土地を貸したときの賃料、家賃は建物を貸したときの賃料のことを意味します。事業用定期借地権が成立するような土地は立地が良い物件が多いので、地主が自ら建物を建てて借家事業を行っても問題なく成立する可能性は高いと考えられます。
借家事業は、建物投資を伴い借入金の返済リスクは負うものの、事業用定期借地権のオファーがあるような土地は立地が良いので問題なく行うことができると言えます。事業用定期借地権を選択した場合は、土地の高いポテンシャルとは不釣り合いな収入に留まってしまうことから、収入を増やしたい場合には借家事業も検討することもおすすめします。
事業用定期借地権は、相続税の圧縮効果は借家事業よりも低くなります。
事業用定期借地権が付着した土地も、一応、更地価格から減額評価を受けますが、その減額割合は以下のように定められています。
減額割合は、残存期間が短くなるほど小さくなり、相続税評価額が更地に近づきます。つまり、借地期間が経過するほど、相続税の節税効果が薄まっていくということです。相続税の節税効果は、一般的には建物を建てて貸す借家事業の方が大きいため、相続税対策が主目的の方は、借家事業による節税効果もあわせて検証した方が良いでしょう。
借主が破綻したときの対応が難しいという点もデメリットです。
事業用定期借地権は撤退リスクが低いものの、契約期間が長期であるため、その間に事業者が破たんすることは考えられます。事業者が破たんした場合、借地人の建物が残ってしまいます。借地人の建物は土地所有者のものではないため、勝手に壊したり、他人に貸したり、売ったりすることができません。法的措置も必要となり、借主の破たん時に簡単に対処できない点が借家事業とは異なります。
以上、事業用定期借地権について解説してきました。
事業用定期借地権には、「比較的割高な地代が得られる」、「建物投資が不要となる」といったメリットがあります。一方で、「家賃に比べると収入は少ない」、「相続税の圧縮効果は借家事業よりも低い」といった点がデメリットです。事業用定期借地権は、長期的な観点からするとおすすめの土地活用となります。オファーがあった場合には、家族でしっかり話し合い、前向きに検討してみてください。
(記事は2021年7月1日時点の情報に基づいています)