目次

  1. 1. 共有名義の解消方法8選
    1. 1-1. 全員の同意を得て不動産全体を売却する
    2. 1-2. 他の共有者に自分の共有持分を売却する
    3. 1-3. 他の共有者の共有持分をすべて買い取る
    4. 1-4. 土地なら分筆して共有者それぞれの単独名義にする
    5. 1-5. 自分の共有持分を贈与する
    6. 1-6. 買取業者に自分の共有持分を売却する
    7. 1-7. 自分の共有持分を放棄する
    8. 1-8. 共有物分割請求を起こす
  2. 2. 特殊な状況下で共有名義を解消または回避するための対処法
    1. 2-1. 共有者と連絡が取れない場合は民法上の制度を利用する
    2. 2-2. 共有者が認知症になった場合は成年後見制度を利用する
    3. 2-3. 相続時なら遺産分割協議で単独名義になるよう進める
    4. 2-4. 相続前なら遺言書や生前贈与を利用できないか確認する
    5. 2-5. 借地権・底地なら借地人・地主とも話し合う
  3. 3. 共有名義の解消をトラブルなく進めるためのポイント
    1. 3-1. 同意の必要性にかかわらず共有者と話し合いをする
    2. 3-2. 不動産の査定や売買契約書作成などは専門家に依頼する
  4. 4. 共有名義不動産の所有を続けるリスク
    1. 4-1. 売却やリフォームなどが自由にできない
    2. 4-2. 自分が住んでいなくても維持管理費や税金の支払いが必要になる
    3. 4-3. 相続が発生すると権利関係が複雑化していく
  5. 5. 共有名義の解消に必要な主な費用
    1. 5-1. 不動産を売買した際にかかる費用
    2. 5-2. 土地の分筆にかかる費用
    3. 5-3. 共有持分の放棄や贈与にかかる費用
    4. 5-4. 共有物分割請求訴訟にかかる費用
  6. 6. まとめ|売却や放棄などで共有名義を解消しリスクを回避しよう

共有名義を解消する方法や共有名義から抜け出す方法は、下記のように分けられます

【他の共有者の同意が必要な共有名義の解消方法】

  • 全員の同意を得て不動産全体を売却する
  • 他の共有者に自分の共有持分を売却する
  • 他の共有者の共有持分をすべて買い取る
  • 土地なら分筆して共有者それぞれの単独名義にする
  • 自分の共有持分を贈与する

【他の共有者の同意なしで始められる共有名義の解消方法】

  • 買取業者に自分の共有持分を売却する
  • 自分の共有持分を放棄する
  • 共有物分割請求を起こす

以下では、共有名義を解消する方法および共有名義から抜け出す方法を解説します。

全員の同意を得て不動産全体を売却することを示した図解。4名で持分25%ずつの不動産を6000万円で売却した場合は共有者で1500万円ずつ分配する
全員の同意を得て不動産全体を売却することを示した図解。4名で持分25%ずつの不動産を6000万円で売却した場合は共有者で1500万円ずつ分配する

共有者全員の同意を得て共有名義不動産全体を一括売却し、その売却代金を共有持分割合に応じて分配する方法です。共有名義不動産全体の売却は民法第251条に基づく「変更(処分)行為」に該当し、共有者全員の同意が必要だと定められています。

例えば共有名義不動産を6000万円で売却し、4人の共有者がそれぞれ25%ずつ持分を持っている場合は、売却代金を1人あたり1500万円ずつ分配します。なお、分配割合については、共有者間で合意があれば自由に決めることも可能です。

【共有名義不動産全体を売却するメリット】

  • 不動産の管理義務や共有名義の状態そのものから完全に抜け出せる
  • 市場価格に近い金額で売却しやすい
  • 相続や離婚の際に現金で公平に分配しやすい

不動産全体を売却すれば、共有者全員が所有権を手放すことになるので、共有名義の状態を完全に解消できます

この売却方法であれば、一般の人からの需要を期待できるのもメリットです。買主が単独名義で登記できるため、買主が共有名義に関するトラブルやリスクをすべて避けられるからです。

さらに、現金に換えておくことで、共有者全員に公平に分配できます。不動産のままで残すより、相続や離婚時の財産分割でもめるトラブルを防ぎやすくなります。

【共有名義不動産全体を売却するデメリット】

  • 共有者全員の同意がなければ売却できない
  • 意見が分かれてトラブルになる
  • 不動産を手放す必要がある

共有者が1人でも反対すると、不動産全体は売却できず、交渉を重ねて同意を得る必要があります。この交渉の際に「5000万円以上で売れないと同意しない」「売却はまだ早い」など、意見が分かれてトラブルになるかもしれません

また、売却できた場合でも、不動産の所有権が完全に失われます。「実家を残したい」「将来的に不動産を活用したい」という共有者がいる場合には向かない方法といえます。

【共有名義不動産全体の売却が向いている人】
共有者全員が売却に前向きで、できるだけ高値で現金化したい人に向いています。また、共有関係をすっきり解消し、今後のトラブルを避けたい場合にも適した方法です。

他の共有者に自分の共有持分を売却することを示した図解。他の共有者へ売却することで、売主の共有持分は買主に移動される
他の共有者に自分の共有持分を売却することを示した図解。他の共有者へ売却することで、売主の共有持分は買主に移動される

他の共有者に、自分の共有持分を売却して共有状態から抜け出す方法があります。共有持分のみなら、他の共有者の同意がなくても売却が可能です。

買主となった共有者は、購入分だけ共有持分割合が増加します。例えば、自分の持分30%を、持分20%を持つ共有者に売却した場合、買主となった共有者の持分割合は50%です。

【他の共有者に自分の共有持分を売却するメリット】

  • 買主となる共有者の同意があれば取引できる
  • まったく面識のない第三者に所有権を譲渡せずに済む
  • 第三者に売却するよりも高値での取引が期待できる

他の共有者へ共有持分を売却する最大のメリットは、不動産全体の売却より手続きがスムーズなことです。買主となる共有者との契約だけで売買が成立します。

また、第三者に持分を渡さずに済むため、新たな共有者とのトラブルを避けられます。

売却額の相場は「不動産の市場価格 × 持分割合」が目安で、買取業者に比べ諸経費が差し引かれない分、高値になりやすい点もメリットです。

【他の共有者に自分の共有持分を売却するデメリット】

  • 相手に購入資金や意思がなければ売買が成立しない
  • 不当に安い価格で売却を迫られるリスクがある
  • 売却価格が時価よりも著しく低いと贈与税が発生する可能性がある

他の共有者に購入資金や意思がなければ、そもそも売買契約を結べません。成立が難しそうな場合は、他の方法で共有名義を解消できないかを検討してください。

なお、共有者が兄弟などの親族の場合、親しい間柄であることを理由に、不当に安い価格での売却を強引に迫る事例が実務上珍しくありません。

売却価格を時価と比較して著しく低く設定すると、差額分だけ贈与税が発生するリスクがあります。税務署から「みなし贈与」と判断され、差額分の贈与と認定されるためです。

【他の共有者に自分の共有持分を売却するのが向いている人】
他の共有者が共有持分の買取に積極的で、資金面にも問題なさそうな場合は、共有持分の売却が成立する可能性があります。また、外部の第三者に頼らず、共有者内で問題を収めたい場合にもこちらの方法を検討してみてください。

他の共有者の共有持分をすべて買い取ることを示した図解。他の共有者から持分を買い取った不動産は買主の単独名義になる
他の共有者の共有持分をすべて買い取ることを示した図解。他の共有者から持分を買い取った不動産は買主の単独名義になる

他の共有者の共有持分をすべて買い取り、登記簿上の所有者を自分1人にして共有名義を解消する方法があります。買取後は、自らの不動産として自由に使用や処分ができます。

【他の共有者の共有持分をすべて買い取るメリット】

  • 不動産の所有権を手放す必要がなくなる
  • 買取後の不動産は自由に売却や活用ができる
  • まったく面識のない第三者に所有権を譲渡せずに済む

共有持分をすべて買い取ればその買主の単独名義にできるため、不動産の所有権を手放すことなく共有名義を解消できます。買取後の不動産は、自宅として利用するのはもちろんのこと、売却、賃貸、リフォームなどを自分の意思だけで判断できるのもメリットです。

また、他の共有者に自分の共有持分を売却する場合と同じく、第三者が絡むことで懸念されるトラブルを避けられます。

【他の共有者の共有持分をすべて買い取るデメリット】

  • 購入資金が必要になる
  • 結果的に共有者全員の同意が必要になる
  • 共有者が多いと価格交渉などが長期化する恐れがある

持分すべてを買い取るには、他の共有者全員の共有持分を買い取る資金力が求められます。例えば、市場価格が5000万円で持分が50%の場合は、残りの50%を買い取るために2500万円程度(5000万円 × 50%)の資金が必要です。

また、すべての共有者と売買契約を結ぶ必要があるため、最終的には共有者全員の同意が必要になる点にも注意が必要です。共有者が多くなるほど、売却価格やその他の条件について合意を得るまで長期化する恐れもあります。

【他の共有者の共有持分をすべて買い取るのが向いている人】
共有名義を解消しつつ、「今後も自分で不動産を活用したい」「実家などの大切な不動産を残したい」といった人に向いている方法です。

分筆して共有者それぞれの単独名義にすることを示した図解。物理的に分割が可能な土地の場合のみ可能
分筆して共有者それぞれの単独名義にすることを示した図解。物理的に分割が可能な土地の場合のみ可能

共有名義不動産が土地であれば、土地を区分して各共有者に単独で所有させる「分筆手続き」が可能です。登記簿上の共有名義の土地を共有持分割合に応じて分割し、それぞれの所有者の単独名義にします。

例えば、共有名義の土地が200㎡あり、AとBがそれぞれ50%ずつの共有持分を有している場合、土地を100㎡ずつに分け、AとBそれぞれを単独名義人として登記し直します。

ただし、分筆を実行するには共有持分の過半数の同意が必要です。また、不動産が建物である場合は物理的に分割できないため、分筆以外の手続きが必要な点に注意してください。

【分筆して共有者それぞれの単独名義にするメリット】

  • 共有名義を完全に解消しつつ土地を単独所有できる
  • 単独名義にした土地をそれぞれが自由に活用できる
  • 公平に分配しやすい

分筆であれば、共有名義の状態を完全に解消した上で、不動産の所有を継続できます。分筆後の土地は自分の意思で活用できるため、新しく建物を建てたり第三者へ貸し出したりすることなども自由です。

また、共有持分割合に応じて土地を分割するため、共有者間の公平性を保ったまま共有名義を解消できる点もメリットです。

【分筆して共有者それぞれの単独名義にするデメリット】

  • 共有持分のうち過半数の同意が必要になる
  • 分割後の土地が狭すぎたり形が歪(いびつ)だったりすると資産価値が下がりやすい
  • 境界が確定していない場合は確定測量が必要になる

例えば、自分以外に60%の持分を持つ共有者が反対している場合、他の共有者全員が賛成していても過半数に達しないため、分筆登記の申請はできません。

過半数の同意が得られた場合でも、分筆後の土地が「狭すぎる」「不整形地になる」といった状態になると、分筆後の資産価値が大きく低下する恐れがあります。事前に専門家に相談し、分筆後の資産価値や土地利用に影響がないかを確認しておくのがよいでしょう。

なお、分筆後は共有者全員が所有権移転登記を行うため、共有者全員の協力が不可欠です。

【分筆が向いている人】
分筆後の土地の広さや形状に問題がないことを確認し、共有名義の解消後も土地の活用を続けたい場合には、分筆が適しています。ただし、実務上は共有名義を解消する方法として分筆が選ばれるケースはそれほど多くありません。

共有持分を贈与することを示した図解。金銭の授受は必要ないが、場合によっては贈与税が発生するため注意が必要
共有持分を贈与することを示した図解。金銭の授受は必要ないが、場合によっては贈与税が発生するため注意が必要

自分の共有持分を他の共有者に贈与することで、共有状態から抜け出す方法があります。

贈与とは、自分の財産を譲受人に無償で譲り渡す行為です。他の共有者とは贈与契約を締結した後、所有権移転登記によって名義を譲受人に移します。

口頭でも契約は成立しますが、贈与契約書として書面に残しておくことで、将来のトラブルを防ぎやすくなります。

【自分の共有持分を贈与するメリット】

  • 相手が購入資金を用意できなくても成立する
  • 金銭の授受が発生しない分、売買よりも簡単に進めやすい

贈与は金銭のやり取りが発生しないため、相手が購入資金を用意できなくても実行できます

また、不動産の査定や売り出し価格の設定・交渉が必要ないことから、売買よりも手続きを簡単に進められる点もメリットです。

【自分の共有持分を贈与するデメリット】

  • 相手に贈与税が課されるため、トラブルになる可能性がある
  • 所有権を手放すだけで、こちら側に金銭面のメリットがほとんどない
  • 譲受人以外にも共有者がいる場合、不動産の共有状態自体は残る

不動産を贈与した場合、譲受人には共有持分の評価額分の贈与税や不動産取得税がかかります。譲受人が課税について一切知らなかった場合は、譲受人とトラブルになる可能性があります。

また、贈与は売却と異なり、現金を一切受け取れない点にも注意が必要です。

例えば共有持分の評価額が1000万円の場合、1000万円を無償で渡すことになります。将来的な固定資産税や維持管理費の支払いからは解放されますが、金銭的なメリットは少なくなります。

譲受人以外にも共有者がいる場合、共有名義自体を解消できない点もデメリットです。

【自分の共有持分を贈与するのが向いている人】
自分の親族や親しい関係にある共有者に対して、無償で所有権を譲りたい場合には、贈与が適しています。例えば、「家族間・親族間で共有名義をスムーズに解消したい」「資金のない相手に権利を渡したい」といったケースが考えられます。

【関連】不動産取得税とは 贈与で不動産取得した際の計算方法や軽減措置も解説

買取業者に自分の共有持分を売却することを示した図解。他の共有者の同意が不要で売却できるが、価格が安くなりやすいことなどのデメリットもある
買取業者に自分の共有持分を売却することを示した図解。他の共有者の同意が不要で売却できるが、価格が安くなりやすいことなどのデメリットもある

共有持分の買主には、他の共有者だけでなく、不動産の買取業者も挙げられます。

買取業者とは、顧客から不動産を直接買い取り、リフォームやリノベーションなどで市場価格を高めた後、再販や賃貸などで利益を挙げる事業者です。仲介業者とは異なり、依頼しても仲介手数料が一切発生しません

【買取業者に自分の共有持分を売却するメリット】

  • 他の共有者の同意が必要ない
  • 目安として数日から1カ月程度で現金化できる
  • リフォームや清掃などを行わずに、そのままの状態で売却できる場合が多い
  • 契約不適合責任免責で取引ができる

買取では業者自らが買主となるため買主探しが不要で、数日〜1カ月ほどで現金化できるのが一般的です。

取引は多くが「現況有姿買取」や「契約不適合責任免責」に対応しています。現況有姿買取は、建物の欠陥や残置物をそのままに売却でき、リフォーム・清掃・整地なども不要です。

契約不適合責任が免責となれば、売却後にシロアリ被害や雨漏りなどが見つかっても売主は責任を負いません。

これらの点から、「共有者間トラブル」「事故物件」「再建築不可物件」など扱いが難しい共有持分でも、対応できる買取業者が多いことも特徴です。

【買取業者に自分の共有持分を売却するデメリット】

  • 諸経費などが査定に反映されて売却価格が下がりやすい
  • 問題のある業者と取引するとトラブルに発展するリスクがある

買取業者の査定額には、「売買手続きやその他のサポートにかかる諸経費」「現況有姿買取や契約不適合責任免責に対するリスク負担費」などが反映されます。そのため、共有持分の売却相場は、「不動産の市場価格 × 共有持分割合 ×2分の1から3分の1」となり、他の共有者に売却する場合よりも低めになるのが一般的です。

また、悪質な買取業者に依頼してしまうと、「高値で提示した後に減額交渉をしてくる」「強引な営業をしてくる」などのトラブルに巻き込まれるリスクがあります。買取業者を選ぶときは、以下のポイントに注意しましょう。

  • 共有持分や訳あり不動産の買取実績があるか
  • 宅地建物取引業免許を取得しているか
  • 契約内容に契約不適合責任免責が明記されているか
  • 査定金額の根拠が明確か
  • 行政処分歴がないか

買取業者を選ぶ際は、複数の買取業者から査定を取得して査定額やサポートの質を比較検討するのがよいでしょう。

【買取業者に自分の共有持分を売却するのが向いている人】
「相続税の支払いなどで早く現金化したい」「共有者が多すぎて権利関係が複雑化している」「他の共有者が買い取ってくれない」など、トラブルを抱えている共有名義不動産を所有している場合は、買取業者の利用を検討してみるのもよいでしょう。

共有持分を放棄することを示した図解。放棄自体は単独で可能でも、登記手続きは共有者の協力が必要となる
共有持分を放棄することを示した図解。放棄自体は単独で可能でも、登記手続きは共有者の協力が必要となる

共有持分の放棄とは、自分の持分についての所有権を放棄する手続きです。

共有持分を放棄すると、その持分は他の共有者へ帰属します。帰属する割合は、各共有者の持分割合に応じるのが原則です。

【自分の共有持分を放棄するメリット】

  • 他の共有者の同意なく意思表示のみで手続きを開始できる
  • 金銭の授受が発生しない分、売買よりも簡単に進めやすい

共有持分の放棄の大きなメリットは、自分の意思表示のみで放棄自体が成立することです。契約書を交わしたり、他の共有者の同意を得たりする必要はありません。

【自分の共有持分を放棄するデメリット】

  • 他の共有者に贈与税が課せられる
  • 所有権を手放すだけで、放棄する側に金銭面のメリットがほとんどない
  • 登記時には共有者全員の協力が必要になる

共有持分の放棄は実務上贈与と同じ扱いになるため、帰属先になった共有者に贈与税や不動産取得税が課せられます。この点を事前に共有者同士で確認しておかないと、後にトラブルに発展するリスクがあります。

また、贈与と同様に、放棄する人は金銭的利益を一切得られません。

さらに、持分放棄による所有権移転登記は放棄者単独では申請できず、帰属先となった共有者との共同申請が必要です。自分の意思だけで成立する反面、実質的には共有者の協力が求められます。

【共有持分の放棄が向いている人】
「とにかく早く共有名義から抜け出したい」という場合、共有持分の放棄を検討してみてもよいでしょう。登記に協力しない人がいても、登記引取請求訴訟で勝訴すれば単独での登記が可能です。

共有物分割請求を示した図解。共有物分割請求をすると、裁判所の判断で共有名義不動産におけるいずれかの分割方法が決定される
共有物分割請求を示した図解。共有物分割請求をすると、裁判所の判断で共有名義不動産におけるいずれかの分割方法が決定される

共有名義を解消する方法として、民法第256条に基づく「共有物分割請求」や「共有物分割請求訴訟」があります。

共有物分割請求とは、他の共有者に共有状態の解消を求め、分割方法の協議を促す手続きで、原則として相手は協議を拒否できません。ただし、共有者全員が合意した「共有物分割禁止特約(不分割特約)」がある場合は、締結から5年以内は請求が制限されます。

協議がまとまらない場合は、裁判所へ共有物分割請求訴訟を提起でき、判決や裁判上の和解など法的拘束力のある結論を得られます。

共有物分割請求における主な分割方法は、下記の通りです。

  • 現物分割:土地の分筆によって共有名義を解消する
  • 代償分割:共有者の1人が共有持分をすべて買い取り、代償金を支払う
  • 換価分割:共有名義不動産全体を売却し、売却代金を共有持分割合に応じて分配する

なお、判決によっては不動産全体が競売にかけられ、強制的に売却される場合があります。

【共有物分割請求を起こすメリット】

  • 話し合いに応じない共有者がいても手続きを進められる
  • 訴訟まで進んだ場合は必ず何らかの決着をつけられる

共有物分割請求を提起するメリットは、話し合いに応じない共有者がいても、最終的には何らかの決着をつけられる点です。協議が平行線のままで進まなくても、訴訟を起こせば現物分割・代償分割・換価分割のいずれかの形で結論が出ます。

【共有物分割請求を起こすデメリット】

  • 協議や訴訟対応に弁護士費用がかかる
  • 結論が出るまで数カ月から1年以上かかることがある
  • 自分が望む方法で共有名義を解消できるとは限らない

共有物分割請求の大きなデメリットは、一連の手続きにかかる手間と費用の負担です。

共有物分割請求には書面作成・証拠準備・不動産鑑定などが必要で、一般的に弁護士へ依頼します。訴訟に進めば別途報酬が発生するのが通常です。

訴訟が長期化すると判決まで数カ月〜1年以上かかることもあり、その間は共有状態が続くため、共有者間で新たなトラブルが生じる可能性もあります。やり取りは弁護士に任せるなどの対策が必要です。

また、判決や和解案が希望どおりになるとは限らず、「代償分割を求めたが換価分割になった」などの結果も想定されます。

【共有物分割請求が向いている人】
共有物分割請求は、あらゆる交渉が行き詰まった場合の最後の手段です。時間と費用はかかりますが、法律上必ず決着がつくため、長期化した共有名義に関する問題を終わらせたい人に適しています。

共有名義を解消したい場合でも、「共有者と連絡が取れない」「離婚や相続がかかわっている」などの特殊な状況下だと、どう対応したらよいのかわからなくなるケースも珍しくありません。

以下では、特殊な状況下で、共有名義を解消または回避するための対処法を解説します。

共有名義不動産において、他の共有者と連絡が取れない、あるいは所在が不明なケースに陥っている場合は、民法上の制度を利用して対応できます。例えば2023年4月1日より施行された改正民法では、所在等不明共有者に対応できる新たな制度が新設されました。

【所在等不明共有者の持分の取得の裁判を申し立てる】
所在等不明共有者の持分の取得の裁判は、民法第262条から第264条に基づく手続きです。連絡が取れない人がいる場合、その共有者の共有持分を、他の共有者が取得できるよう裁判を申し立てられます。申立てが認められれば、所在等不明共有者の共有持分を取得できます。

この制度を利用すれば、連絡が取れない共有者が原因で止まっていた売却手続きやリフォーム工事などを進めることが可能です。仮に共有者が連絡が取れない人のみだった場合は、単独名義で不動産を所有できます。

【所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の裁判を申し立てる】
所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の裁判は、民法第262条に基づく手続きです。

共有名義不動産全体を第三者に譲渡することを条件に、連絡が取れない人の共有持分を含めて譲渡できるよう裁判を申し立てられます。申立てが認められれば、連絡がつかない人がいる状態でも共有不動産全体の売却ができるようになります。

【不在者財産管理人選任を申し立てる】
不在者財産管理人選任は、民法第25条から第29条に基づく手続きです。連絡が取れない人の財産を、代わりに保全・管理できる不在者財産管理人を選任します。

不在者財産管理人は裁判所の監督下にあり、連絡が取れない人の財産から報酬が支払われます。選ばれるのは、利害関係のない人や弁護士・司法書士といった専門家などです。

選任された後は、共有名義不動産の処分や管理行為に関して不在者財産管理人が代わりに判断します。もし行方不明者が相続人だった場合も、行方不明者の代わりに遺産分割協議に参加してくれます。

【失踪宣告を申し立てる】
失踪宣告は、民法第30条に基づく手続きです。連絡が取れない上に長期間生死不明の人がいる場合に、要件を満たすことでその人物を法律上死亡したものとみなします。

失踪宣告が行われると、生死不明の人に関する相続が発生し、財産が相続人へ引き継がれます。共有持分も相続人に引き継がれるので、その相続人と売却やリフォームなどについて話し合って同意を得られるかを確認しましょう。

「成年後見制度」とは、認知症や精神障害などが原因で判断能力が低下した本人のために、契約その他の法律行為や財産の管理などを任せる成年後見人を選出する手続きです。成年後見人が、認知症になった共有者に代わって、共有名義不動産の管理や売却などを判断します。

成年後見制度は、大きく分けると「法定後見」と「任意後見」の2つです。

法定後見は、すでに判断能力が低下している場合に利用でき、能力の程度に応じて後見人に権限が与えられます。家庭裁判所への申し立てと調査を経て選任され、低下後でも利用できる点がメリットです。

任意後見は、判断能力があるうちに任意後見契約を結び、能力低下が認められた段階で開始します。後見人を自分で選べるほか、契約で権限範囲を柔軟に設定できる点が特徴です。

成年後見制度のほか、家族信託を活用する方法もあります。家族に財産管理や処分を任せる契約で、後見制度より権限設定や収益配分を自由に決めやすい利点があります。

【関連】家族信託とは? 仕組みやメリット・デメリットを司法書士がわかりやすく解説

不動産を共有名義で相続しそうな場合は、遺産分割協議時に不動産を特定の相続人の単独名義になるよう話し合いましょう。

遺産分割協議を成立させるには、相続人全員の合意が求められます。そのため、不公平感や不満が出ないように、財産の公平な分配を心がけて進めるのがコツです。前述した財産分与の例のように、現物分割・代償分割・換価分割で対応するのが実務上一般的です。

相続人全員が合意した場合は、その内容を遺産分割協議書として書面に残します。

遺産分割協議が完了した後は、相続登記で相続人名義に変更することを忘れないようにしてください。相続登記は2024年4月1日から義務化されており、期限までに手続きをしなければ10万円以下の過料の対象になります。

被相続人が存命のうちに、遺言書や生前贈与の活用が可能かどうか検討してみるのも1つの手です。

【遺言書】
遺言書とは、被相続人が自身の財産をどのように相続させるかを指定するための書面です。遺言書に記載された内容は、遺産分割協議や法定相続よりも優先されます。

そのため、遺言書で「長男の単独名義で相続させる」など、特定の相続人に不動産を引き継がせるよう指定してもらっておけば共有名義を回避できます。

【生前贈与】
生前贈与とは、被相続人が存命のうちに財産を特定の相手へ贈与することです。生前贈与で特定の人に不動産をすべて贈与しておけば、その不動産は相続財産から除外され、共有名義による相続を回避できます

ただし、譲受人は不動産の評価額分の贈与税や不動産取得税が課せられるので注意が必要です。

共有名義不動産に借地契約がかかわっている場合は、共有者だけでなく、借地人や地主とも調整が必要になります。

借地契約とは、建物を利用する目的で地主から土地を借り、借りた土地の上で建物を建てたり活用したりできる権利を得る契約です。土地の借主を借地人、借地人が持つ権利を借地権と呼びます。

借地人の立場で借地権を第三者に売却する場合は、地主の承諾や承諾料の支払いが必要です。地主に無断で売却した場合は、重大な契約違反として借地契約が解除され、買主ともトラブルになるリスクが出てきます。

地主の立場で底地を売却する場合は、借地人の承諾は必要ありません。しかし、売却については事前に話し合っておいたほうが、引き継ぎ関係のトラブルが少なくなります。

共有名義の解消をトラブルなく進めるには、法律的な正しさだけではなく、他の共有者への配慮や専門家の協力が必要です。

共有持分だけであれば、他の共有者の同意なく売却などの処分が可能です。しかし実務上は、同意の必要性にかかわらず、共有名義の解消について共有者と事前に話し合うことが重要です。

自分だけが共有名義から外れても、他の共有者は共有名義の状態を維持しています。無断で共有名義を抜けた後に不動産関係のトラブルが起きると、「勝手に売ったせいで大変な目にあっている」といった不満が生じ、感情的な対立が生まれるリスクがあります。

特に注意が必要なのは、他の共有者が面識のない第三者に自身の持分を譲渡するケースです。

実際のところ、共有者が第三者に代わることで、不動産管理が難しくなるトラブルは少なくありません。第三者との共有で他の共有者が懸念するトラブルの例は、次の通りです。

  • 不動産の管理方針や処分について意見が対立する
  • 面識のない共有者が敷地を自由に出入りすることに不安やストレスを感じる
  • 他の共有者に対して強引な売却交渉や立ち退き交渉を続ける

共有持分の処分について事前に相談しておけば、「一言相談してくれればよかったのに」という気持ちの行き違いをなくせます。話し合いを通じて、より適した共有名義の解消方法が見つかることも期待できます。

共有名義不動産の価格査定や売買契約書の作成など、専門知識が必要な行為は、不動産会社などの専門家に依頼しましょう。

専門知識のない人だけで進めてしまうと、「適切な価格が設定できずに買主が見つからない」「契約に不備が出て無効・解除になる」「契約内容について買主とトラブルになる」といったリスクが生じる恐れがあります。

専門家に依頼すべき手続きや、それぞれの専門家の役割は以下の通りです。

  • 査定や売り出し価格の設定:不動産会社や不動産鑑定士
  • 売買契約書の作成:不動産会社
  • 土地の確定測量:土地家屋調査士
  • 登記関係の手続き:司法書士
  • 譲渡所得税や贈与税などの確定申告:税理士
  • 相続関係の相談:弁護士や司法書士
  • 共有物分割請求:弁護士

個人間の売買であっても、不動産会社や弁護士などを介して、法的な観点や不動産の専門知識に基づいた客観的な話し合いができるようにしましょう。

共有名義不動産の所有を続けると、以下のリスクが懸念されます。

共有名義不動産の共有者は、変更(処分)行為や管理行為が自由にできません。不動産を所有していても、自分の思い通りに活用できない状態となります。

【共有者全員の同意が必要となる「変更(処分)行為」の例】

  • 不動産全体の売却
  • 建物の建て替え
  • 大規模な改築・増築
  • 住宅ローンを組むために不動産を担保に入れる
  • 3年を超える長期賃貸借契約の締結

【共有持分の過半数の同意が必要となる「管理行為」の例】

  • リフォームや修繕のうち、軽微変更に該当する規模のもの
  • 共有名義不動産の管理に関するルールの設定
  • 分筆
  • 共有宅地の整地
  • 3年以下の短期賃貸借契約の締結

例えば、「老朽化対策のリフォームを拒否され、資産価値が暴落した上にシロアリ被害が拡大した」「共有者の1人が反対したことで建て替えが認められず、半年後に一部が倒壊してしまった」などが挙げられます。

なお、「修繕行為」「不法占有者に対する返還請求」などの「保存行為」に該当するものは、他の共有者の同意なく単独で行えます。

共有名義不動産の維持管理費や固定資産税などの税金は、たとえ自分が実際に居住していなくても共有者全員で負担しなければなりません。

「一切利用できないのにお金だけ負担させられる」という不満は、実務でもよく耳にします。さらに、「他の共有者の滞納分を肩代わりさせられた」「負担割合について共有者同士で争いになった」などのトラブルも起こりやすいです。

負担割合は、共有持分割合に応じて決まるのが原則です。ただし、当事者同士の合意があれば自由に変更できます。

共有名義のまま放置して共有者が亡くなると、相続の際に共有持分がさらに細かく分割されて権利関係が複雑化するリスクがあります。

例えば20%の持分を持つ共有者が亡くなった場合、その共有持分を子ども2人で相続すると、共有持分は10%ずつです。その状態を維持したまま子どもが亡くなると、孫の代へさらに分割され、雪だるま式に共有者が増えていきます

共有者が増えすぎると、「変更行為や管理行為に関する意思統一が難しくなる」「遺産分割協議がまとまらなくなる」などのトラブルが想定されます。

「相続が重なり、共有者が20人以上になって困っている」「面識のない共有者が海外に在住していて連絡がつかない」といった事例もありました。

共有名義を解消する際には、以下の費用がかかります。

  • 不動産を売買した際にかかる費用
  • 土地の分筆にかかる費用
  • 共有持分の放棄や贈与にかかる費用
  • 共有物分割請求訴訟にかかる費用

不動産を売買した際にかかる費用は、主に次の通りです。

費用 概要
印紙税 売却金額に応じて200円〜60万円の範囲で変動する
売主と買主の合意で決定するが折半にするのが通例であり、売買契約書に記載された売買金額に
応じた収入印紙を貼り付けて納税する
登録免許税 固定資産税評価額 × 税率2%から4%前後が目安
原則として所有権移転登記は買主、抵当権抹消は売主、相続登記は不動産を取得する相続人が支払う
仲介手数料 仲介業者を利用して売買契約が成立した場合に支払う

【仲介手数料の上限】
・200万円以下の部分:売買価格 × 5% + 消費税
・200万円超から400万円以下の部分:売買価格 × 4% + 2万円 + 消費税
・400万円超の部分:売買価格 × 3% + 6万円 + 消費税
譲渡所得税や
住民税など
不動産を売却して譲渡所得(売却益)が出た場合に納税する

【計算方法】
・売買価格 ー(取得費 + 譲渡費用) ー 特別控除=譲渡所得
・譲渡所得 × 不動産の所有期間に応じた税率
不動産取得税 不動産を取得した人が納税する

【計算方法】
固定資産税評価額 × 3%(土地・住宅)または4%(住宅以外の建物)
司法書士報酬 登記手続きを司法書士へ依頼する場合に支払う費用
1件あたり3万円から10万円前後で、司法書士事務所の報酬体系や共有者の数などで変動する
税理士報酬 譲渡所得税や相続税の確定申告の代理を依頼する場合に支払う
1件あたり10万円から20万円が目安で、売却金額や事案の複雑さなどに応じて変動する

【関連】相続した不動産を売却 かかる税金は? 特別控除をどう使う?

土地の分筆や現物分割を行う場合は、土地や建物の調査・測量の専門家である土地家屋調査士に依頼するのが一般的です。

土地家屋調査士に依頼した場合、土地の広さ・形状、境界確定の有無、公図と現況のズレ幅などの要素によって、報酬額は20万円から100万円以上まで大きく変動します。

共有持分の放棄や贈与にかかる費用は、主に譲受人が支払います。

費用 概要
贈与税
(暦年課税)
下記で計算する
(不動産を含め1月1日から12月31日までに贈与で受け取った財産の価額ー基礎控除)× 贈与税率
印紙税 無償贈与なら贈与契約書を作成している場合は一律200円
登録免許税 下記で計算する
固定資産税評価額×税率2%
不動産取得税 不動産を売買した際にかかる費用にて解説した通り
司法書士報酬 不動産を売買した際にかかる費用にて解説した通り
税理士報酬 贈与税の確定申告を税理士にお願いする際に支払う
たとえば、1000万円以下の贈与財産だと5万円程度が目安

共有物分割請求訴訟にかかる費用は、共有物分割請求を起こした人が支払います。発生する費用は、主に次の通りです。

費用 概要
弁護士費用 他の共有者への内容証明郵便、代理交渉、裁判対応など総合的に発生する費用
着手金や成功報酬などを合わせて40万円から60万円前後で、事案の複雑さなどで変動する
不動産鑑定費用 公平な判決のために裁判官から不動産鑑定を命じられた場合にかかる不動産鑑定士への報酬
一般的な住宅なら20万円から30万円前後が目安
裁判費用 裁判を申し立てる際に原告側が支払う印紙代や切手代
合計で5万円前後が目安
司法書士報酬や
登録免許税
訴訟の結果で登記が必要になった場合に支払う

共有名義を解消する方法や、共有名義から抜け出す方法にはさまざまな方法があります。

それぞれの方法でメリット・デメリットがあるので、自分の状況に合う方法を選びましょう。「他の共有者と連絡が取れない」「共有者が認知症になった」などの特殊な状況下に置かれても、民法の制度や協議内容を工夫することで共有名義は解消できます。

不動産の売買、登記手続き、共有者同士の話し合いなど、専門的知識や客観的な視点が必要な場面では、不動産会社、司法書士、弁護士などの専門家の協力を得ることが大切です。

(記事は2025年12月1日時点の情報に基づいています)

【PR】「訳あり不動産」の相談は、クランピーリアルエステートへ

クランピーリアルエステートは、底地や共有持分、再建築不可物件といった、いわゆる訳あり物件を専門的に取り扱う不動産企業。これまでに培ったノウハウと、不動産専門の弁護士や税理士などの全国ネットワークを活かし、問題を解決します。

お問い合わせ先

電話:0120-479-831