東ちづるさんが考える「生きた証し」 寄付で社会とつながり、人生を豊かに 【9月10日~19日は遺贈寄付ウィーク2025】

俳優、タレントとして幅広いジャンルで活躍する東ちづるさん。東日本大震災後の2012年に一般社団法人Get in touchを立ち上げ、トランスジェンダーや障害のあるパフォーマーたちと誰も排除しない“まぜこぜの社会”をめざす活動にも力を入れています。東さんは、遺言書を作成し、遺贈寄付の意向も記載しているといいます。社会課題と向き合う活動や遺贈寄付への思いについて聞きました。
俳優、タレントとして幅広いジャンルで活躍する東ちづるさん。東日本大震災後の2012年に一般社団法人Get in touchを立ち上げ、トランスジェンダーや障害のあるパフォーマーたちと誰も排除しない“まぜこぜの社会”をめざす活動にも力を入れています。東さんは、遺言書を作成し、遺贈寄付の意向も記載しているといいます。社会課題と向き合う活動や遺贈寄付への思いについて聞きました。
目次
――東さんは以前から骨髄バンクの啓発活動を続けていらっしゃいます。きっかけをお聞かせください。
私が32歳のときに、テレビの報道番組で慢性骨髄性白血病と闘う17歳の少年のドキュメンタリーが放送されていたんです。私はこれを見て、この病気は不治の病ではないこと、骨髄移植をすれば助かる可能性があることを知りました。
映像がスタジオに戻り、司会者が「頑張ってほしいですね」という言葉で締めくくったのですが、いかにもお涙ちょうだい的な構成に違和感を覚えました。少年は、何かを伝えたくてテレビに出たはずなのに、それが何であるのか、私には映像を見ただけでは理解できませんでした。
いてもたってもいられなくなり、彼の家族を探し出して、連絡をしました。すると妹さんから手紙が来て、彼は骨髄バンクの存在を多くの人に知ってもらいたくてテレビに出たというのです。
私はメディアに携わる人間として、この少年やご家族の願いに応えたい、何かできることをしたいと思って、骨髄バンクの啓発活動を始めました。
――どうして骨髄バンクの啓発活動を“自分ごと”と思うことができたのでしょうか。
私自身、居場所がほしい、誰かの役に立ちたいと願っていた時期だったのかもしれません。たくさんお仕事をいただいていましたが、忙しすぎてどこか心がすり減るような感覚もありました。そんなときに、17歳の少年が自ら白血病であることを淡々と語る姿に、何か共鳴したのです。活動を始めなければ、50代、60代になったときに後悔すると思ったのです。実際、アクションを起こしてよかったと感じています。
――その後、紛争地の子どもを支援するドイツ国際平和村の活動にも力を入れていますね。
ドイツ国際平和村は、紛争や危機的状況にある地域でけがを負った子どもたちに、治療やリハビリテーションなど主に医療的な支援を提供しているドイツのNGOです。平和意識を高める活動にも力を入れています。私は、「世界ウルルン滞在記」というテレビ番組でドイツの現地組織を訪れて以来、何度も足を運び、日本国内でも活動しています。
今も世界中で戦争や紛争が続いています。私は、ドイツ国際平和村で傷ついた子どもたちの姿を目の当たりにし、平和をつくるために自分も何かしないといけないと思ったのです。
――ドイツ国際平和村の支援活動を通して、学んだことはありますか。
ドイツはボランティア先進国で、寄付に対する意識が日本とはずいぶん違います。日本だと「お金の話」って、言い出しにくい雰囲気がありますよね。でも、ドイツのスタッフは、「お金をこう使うから寄付をください」とはっきり伝えます。活動にはお金がかかるのだから、それは当たり前のこと。つまり、お金は道具として重要なのです。私も発想が大きく変わりました。
一方で、クラウドファンディングが登場して、日本人の寄付に対する意識も急速に変わってきているのを感じます。社会的に意義のある活動について、「お金が必要です」「寄付をください」と呼びかけやすくなっている状況は非常にいい傾向だと思います。
――遺言によって遺産を社会的な活動や団体の支援に役立てる遺贈寄付をご存じでしたか。
もちろん知っています。私はすでに自分の遺言書を用意していて、遺贈寄付をするつもりの団体もいくつかあります。遺贈寄付というのは、自分の遺志を誰かに託す行為ですよね。これは自分の人生に責任を持っている人なら知るべきだし、やるべきことだと思います。
法的な効力を持つ遺言書とは別に、私はずいぶん前にエンディングノートを書いたことがあります。そのときに、自分にとって大切な人、大切なことを書き出して、その人たちや活動のために自分が何をすべきか考えたんですね。自分の人生を振り返ることは重要で、そこから自分が今すべきことも見えてくるのです。自分のお金というのは、自分の人生そのもの。自分の「生きた証し」でもありますよね。自分の人生を社会のためにどう役立てるべきか考える手段のひとつが、遺贈寄付ではないでしょうか。
――「生きた証し」という意味では、東さんは2012年に社会課題と向き合う活動をするために、一般社団法人Get in touchを設立されました。どのような活動をしているのでしょうか。
Get in touchは、アートや音楽、映像、舞台を使って居心地のよい空間をつくることで、「まぜこぜの社会」の実現をめざす団体です。多様性を可視化する活動によって、誰も排除しない、されない社会を実現するための活動をしています。
例えば、Get in touchの舞台には、車椅子や義足、ダウン症や自閉症の演者、低身長症のダンサー、全盲の歌手、トランスジェンダーのシンガー・ソングライターなどが出演します。約40人で組織する「まぜこぜ一座」のメンバーは、みんなプロのパフォーマーとして、報酬を得て活躍しています。Get in touchの舞台はメンバーの仕事場であり、生きる場です。
Get in touchの公演会場ではバリアフリーを徹底し、車椅子の方、視覚障害のある方、聴覚障害のある方など、誰もが楽しめる環境を整えています。音声ガイドや手話通訳による案内のほか、自前でスロープを設置して、車椅子の方が入場できるようにもしています。
思い切り笑って、感動して、発見があって、最後はちょっとモヤモヤする……そんな体験をお客さんに持って帰ってもらいたい。このモヤモヤが大切で、そこから多くの人が身近な課題を知り、寄付などの具体的な行動につながればいいなと思っています。
――困難な状況に置かれた人たちに寄り添ううえで、大切なことは何だと思いますか。
困難を抱える人たちに「寄り添う」のではなく、「一緒にやる」という姿勢が何より大切だと思います。私はさまざまな社会活動をしていますが、ボランティアをしているとは思っていません。支援を「する側」と「される側」という関係ではなく、共に助け合う共助の考え方を何より大切にしています。「寄り添う」とか「理解する」といった言葉はどうしても上から目線になりがちです。やはり、共助の姿勢が何より大切だと思います。
そういう意味では、寄付も共助だと思うのです。寄付することによって、自分が救われると思うこともあります。それは、社会とのつながりができるからではないでしょうか。社会課題をひとつ見つけるとどんどん困難を抱えている人が見えてくる。もちろん、全員を助けることはできません。それでも“共に助け合える”範囲で、自分にできることをすればいいのだと思います。
――最後に遺贈寄付を考えている人、興味を持った人にメッセージをお願いします。
まず、エンディングノートを書いてみましょう。家をどうするのか、臓器提供はどうするのか……空欄を埋めることで資産を把握できるし、自分にとって大切な人やものを再確認できます。
遺贈寄付の対象となる団体や活動は、今ならインターネットなどで簡単に探すことができます。気候変動、貧困、格差、紛争など、関心のあるキーワードで調べてみてください。信頼できる団体が見つかるはずです。
人はいつか死にます。自分の人生に責任を持つためにも遺贈寄付を知ってほしい。それは自分がまだ知らない社会課題を知るきっかけにもなるし、アクションを起こすことで、自分の人生も豊かになると思います。
(聞き手・丸茂健一、撮影・村上宗一郎)
広島県生まれ。多くのテレビ番組に出演しながら骨髄バンクやドイツ国際平和村などの社会貢献活動を30年以上続けている。2012年、アートや音楽、映像、舞台などを通じて誰も排除しない「まぜこぜの社会」をめざし、一般社団法人Get in touchを設立。自らプロデュースする映画「まぜこぜ一座殺人事件」はAmazonプライム他で配信中。著書に自ら描いた妖怪61体を社会風刺豊かに解説した『妖怪魔混大百科』など。9月25日~10月1日に京王百貨店聖蹟桜ヶ丘店で「東ちづるポップアート~妖怪まぜこぜ原画展」を開催。