相続した実家の売却を考えたら 仲介会社選択から契約までの流れ
実家を相続しても、誰も住まず有効活用もしなければ、売却することも選択肢になります。 実家の売却は、どのような流れで行えばよいのでしょうか。いざ実家を売却する際に困らないように、最初の査定から、仲介会社の選択、契約、引き渡しまで、すべての流れや手続きについてファイナンシャル・プランナーが解説します。
実家を相続しても、誰も住まず有効活用もしなければ、売却することも選択肢になります。 実家の売却は、どのような流れで行えばよいのでしょうか。いざ実家を売却する際に困らないように、最初の査定から、仲介会社の選択、契約、引き渡しまで、すべての流れや手続きについてファイナンシャル・プランナーが解説します。
はじめに、相続した実家を売却する場合の流れを確認しましょう。
売却価格の査定
相続した実家を売却したいと思ったときに、まず気になるのは、いくらで売れるのだろうかということではないでしょうか。自分が希望する価格が高いのか安いのか、素人ではなかなか判断できません。そのため、一般的には実家の売却を決めたら、不動産会社に売却額の査定を依頼することからスタートします。
不動産会社は周辺の取引事例や実家の現況などを調査し、査定額を提示してくれます。ただし、1社のみに査定を依頼しても、その査定額が適正かどうか分からなかったり、納得できなかったりすることもあるため、複数の会社に査定の依頼をすることをお勧めします。不動産会社を探すためには、地元の不動産会社に声をかける、インターネットで調べる、一括査定サイトを通して複数の会社を紹介してもらう、などの方法があります。複数の不動産会社に査定を依頼すると、会社によって査定額がまちまちのことがよくあります。その場合、それぞれの会社に、査定額の根拠や販売方法などについて説明をしてもらい、納得して売りに出す価格を決めることが大切です。
仲介会社の選択と媒介契約
売却額の目安が分かると、次に、売却を依頼する仲介会社を選択します。不動産会社が買主を見つけ、売主と買主の間に立って契約をまとめることを「仲介」と言い、仲介する不動産会社を仲介会社と言います。売主は仲介会社との間で「媒介契約」を結びます。媒介契約には、「一般媒介」「専任媒介」「専属専任媒介」という3種類の契約方法があり、それぞれメリット、デメリットがあります。
■一般媒介
一般媒介とは、複数の仲介会社に売却を依頼する方法で、その中で買主を見つけてきた会社が売買契約を行います。
■専任媒介
専任媒介とは、1社のみに媒介を依頼する方法で、他の不動産会社が買主を見つけてきても、仲介会社を通して売買契約をします。ただし、売主が親族や知人など、買主を見つけてきた場合は、仲介会社を通さずに直接売買(自己発見取引)をすることができます。
■専属専任媒介
専属専任媒介は、1社のみに媒介を依頼する点では専任媒介と変わりませんが、売主が買主を見つけてきた場合でも、必ず仲介会社を通して契約をしなければなりません。
それぞれの媒介契約の違いは次の図表の通りです。
3つの媒介契約の中で、どの方法がお勧めなのでしょうか。契約の違いに、指定流通機構への登録義務と、売主への報告義務があります。
指定流通機構とは、レインズとも呼ばれ、専任・専属専任を受けた仲介会社は媒介契約から一定期間内に物件の登録をしなければいけません。登録された物件は他の不動産会社が閲覧することができるため、情報が広がり早期に買主を見つけることに役立ちます。なお、一般媒介の場合は指定流通機構への登録義務はありません。また、専任媒介では2週間に1回以上、専属専任媒介では1週間に1回以上、売主へ販売状況を報告する義務があるため、売主は集客状況や仲介会社の営業活動の状況が把握できます。一般媒介には報告義務はなく、これらのことからも、専任や専属専任は売主にとってメリットが大きいと言えます。
実家が人気のある地域にあり、早期に売却できそうな場合は、一般媒介を選択し、複数の仲介会社に競わせるという考え方もあります。立地条件や物件の状態なども把握した上で契約の種類を決めるとともに、信頼がおける会社を選択するようにしましょう。
媒介契約を締結すると、いよいよ販売がスタートします。仲介会社は指定流通機構への登録、不動産サイトへの掲載、顧客への案内など、売却に向けた活動を始めます。そして、条件に合う買主がいれば、現地案内をするなどして購入を勧め、買主が気に入れば、売買条件の打合せを行います。
売買条件の打合せで最も多いのは、買主からの値引きの要求です。その他に、古い家屋を解体して引き渡してほしいという希望もしばしばあります。このような場合、現況のまま引き渡す代わりに解体費分の値引きを要求されるケースも少なくありません。売主側は、仲介会社のアドバイスを受けながら譲歩できる幅を決めて、会社に交渉してもらいます。近年は空き家も増え、買主が有利な立場になることが多いため、ある程度の譲歩は覚悟しておく必要があるでしょう。交渉や調整の結果、お互いが納得する金額・条件で折り合えば契約が成立します。
■売買契約
買主との売買条件の交渉がまとまれば、いよいよ売買契約を締結します。売買契約の前に、仲介会社は買主に対して重要事項説明を行います。重要事項説明は、宅地建物取引業法で定められており、必ず宅地建物取引士が行わなければいけません。重要事項説明では、次のような事項を説明します。
・不動産の権利関係
・不動産の法律的な制限(都市計画法、建築基準法など)
・不動産の属性(水道・下水・電気・ガスなどの整備状況、災害指定区域、耐震性、設備の状況など)
・売買代金の支払い条件
・解約時の規定
高い買い物である不動産を買主が納得して購入できるように、詳細な項目まで説明する必要があります。なお、2020年8月からは、水害ハザードマップの提示と説明が義務化され、災害に関する情報開示は重要な説明事項の1つとなっています。
重要事項の説明後に売買契約が締結されます。契約成立時に、売主は買主から手付金を受取ります。手付金の金額は特に決まっていませんが、売買価格の5%から10%が一般的です。
この手付金は、法律上、「解約手付」とされます。解約手付とは、お互いに相手方が契約を履行する前であれば、買主は手付金を放棄(手付流し)、売主は手付金の倍額を買主に償還(手付倍返し)することにより、契約を解除することができるという手付金のことです。契約の履行とは、買主は中間金や残金を支払うこと、売主は不動産を引き渡したり登記に必要な書類を買主に渡したりすることを言います。
また、売買契約には条件がつくことがありますが、そのなかでも多いのが「ローン条項」です。これは、買主が住宅ローンを利用する場合、万が一、銀行から住宅ローンの融資が断られた場合には、売買契約が解除されるというものです。その場合、手付金は買主に返還する必要があります。
なお、売買契約が成立すると、仲介会社に仲介手数料を支払います。仲介手数料の支払い時期は、売買契約時一括、引き渡し時一括、売買契約時と引き渡し時に半額ずつなどがありますが、媒介契約前に仲介会社と取決めをしておきます。
■引き渡し
契約から引き渡しまでは一般的に1~2カ月の期間を定め、その間にお互いが引き渡しのための準備を行います。売主は、所有権移転登記に必要な書類を準備しておく必要があります。
・登記済証(権利証)または登記識別情報通知書
・印鑑証明書
・固定資産税評価証明書
・境界確認書(必要な場合)
他にも必要に応じて必要になる書類があるので、早めに仲介会社や司法書士に確認しておきましょう。また、実家に親の遺品などが残っている場合、引渡しまでにきれいに片づけなければいけません。自分で処分すれば費用も安くすみますが、遺品は大量に残されている場合が多いため、引渡しまでに時間がない場合は、遺品整理会社などに処分を依頼する必要があります。
売主・買主双方が引き渡しの準備を整え、いよいよ引き渡しとなります。売却の準備から、査定、売買条件の交渉、そして契約とさまざまな手続きがあり、時間も精神的な負担もかかりますが、これでようやくホッとすることができることでしょう。
ここで忘れてはいけないのが、税金の申告です。不動産を売却して利益が出た場合、確定申告をして所得税を納めなければいけません。いくらくらい税金がかかるか、空き家の特別控除が適用できるかなどについては、事前に税理士に相談して把握しておきましょう。
相続した実家の売却について、ひと通り解説をしましたが、そのなかで最も重要なポイントは、冒頭のフローチャートにある「情報収集・売却の準備」と言えます。まずは、実家の今後について家族で話し合うことから始めます。また、境界がはっきりしない、道路に問題がある、名義が亡くなった祖父のまま、などの問題があれば、早めに解決しておく必要があります。スムーズに売却を進めるためには、不動産は共有名義にせず、相続人のうち一人が相続したり、換価分割(売却してお金で分ける)をしたりするなど、相続の方法も話し合っておきましょう。
「情報収集・売却の準備」は、相続後よりも、親が元気なうちに始めておくほうが、将来のスムーズな売却につながります。問題があれば、必要に応じて、弁護士、税理士、不動産会社、FPなどの専門家に相談しながら、早めに解決してスムーズなスタートができるように備えておきましょう。
(記事は2021年2月1日時点の情報に基づいています)
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