新しく始まった「相続登記の義務化」で何が変わるのか
高橋真麻(たかはし・まあさ)さん 1981年生まれ、東京都出身。元フジテレビアナウンサー。父は俳優・高橋英樹さん。衣装:PINKY&DIANNE アクセサリー:グロッセ・ジャパン
高橋(以下敬称略):相続登記が義務化されたというニュースを見ました。具体的にどういう変化が起きているのでしょうか。
平田:相続登記の義務化は2024年の4月から始まった新しいルールです。土地や建物の相続を受けた場合、3年以内に名義の変更登記をすることが義務付けられました。
高橋:今まで義務付けられていなかったのですか? けっこう大きな変化ですね。
平田:おっしゃる通りです。これまで義務化されていなかったため、所有者の不明な土地が全国で増加し、周辺の環境悪化や公共事業の推進に影響が出ていました。これらの問題を解決するために法律が改正されたのです。
高橋:でも、例えば相続争いが起きた場合には、3年以内の登記は難しくなりそうですね。
林:相続争いが起きると、確かに登記が遅れる可能性はあります。ただ、相続登記の義務化とは別に、相続税の納付期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内と定められています。これは変わっていません。
高橋:相続税の納付と相続登記は別なのですか?
平田:はい、別です。相続税は国税庁に納付し、登記は法務局でおこないます。相続税は財産を相続したことに対する税金で、相続登記は不動産の名義を変更する手続きです。ですので、たとえ相続争いで相続登記が遅れたとしても、相続税は期限内に納付しなければなりません。
高橋:なるほど。相続って本当に複雑なんですね。税金のことも、登記のことも、きちんと把握しておかないといけないですね。
林:その通りです。相続に関しては様々な手続きや期限があるので、事前に知識を得ておくことが大切ですね。特に今回の相続登記の義務化は、多くの人に影響する可能性がある重要な変更点です。
相続税が注目される理由 控除額引き下げにより申告対象者が増加
平田実(ひらた・みのる)さん 2007年、OAG税理士法人入所。中小企業から上場企業まで幅広い分野の税務を担当。2024年にOAG税理士法人の代表社員に就任し、個人の相続分野についても当法人の主力サービスとして牽引している
高橋:そもそも相続税とはどんな制度なのでしょうか。また、最近注目を集めている理由も教えてください。
平田:相続税は、亡くなった方の配偶者や子供が相続する財産に対してかかる税金です。相続する財産の評価額から借金などの債務や葬式費用などを差し引き、さらに基礎控除額を引いた金額に対して課税されます。
林:注目を集めている理由としては、2015年に相続税の基礎控除額が大幅に引き下げられたことが挙げられます。以降、これまで相続税の対象にならなかった方も申告が必要になるケースが増えました。
高橋:資産の種類によっても相続税の計算は変わってくるのでしょうか。父が俳優をしているので、よく「芸能人は相続が大変でしょう」と言われます。不動産や貴金属、美術品などは、評価が難しそうですよね。
林:その通りです。特に美術品の評価は非常に難しいですね。最近あったケースでは、お客様のお父様が所有していたクラシックカーの評価額が、当初の150万円から突如1500万円に跳ね上がったことがありました。こういったケースでは、専門家の意見を聞きながら慎重に評価する必要があります。
高橋: 10倍になるだなんて!びっくりです。
相続対策はいつから何から始めればいいの?
林由美(はやし・ゆみ)さん 航空会社、会計事務所等を経て、1999年OAG税理士法人に入所。2003年から「相続」を中心とした税務申告、相談業務を担当している相続専門のスペシャリスト
高橋:相続対策は、いったい何から始めればいいのでしょうか。
林:まずは、ご両親の財産の総額を把握することから始めるのがよいと思います。預貯金、不動産、生命保険など、大まかな金額でも構いません。そうすると、もしもの時にどれくらいの税金を払わなければならないのかがわかります。
高橋:でも、両親に「財産はいくらあるの?」と聞くのは難しいですよね。特に日本人は、お金の話をするのをタブー視する傾向がありますし。
林:そうですね。例えば、実家の「断捨離」を手伝うのをきっかけに「お父さん、お母さん、どれくらい自分の財産を持っているか把握しておいてね」と持ちかけるのもいいかもしれません。
高橋:実は数年前に、両親にお願いして「断捨離」をしてもらったんです。私は一人娘なので、両親が亡くなった後に自分だけで荷物を整理するのは大変だろうと思って。でも、やっぱり「もし父母が亡くなったら」という前提で話すのは難しかったですね。
林:確かに難しい話題ですが、高橋さんのように早めに行動を起こすのはとても良いことです。
高橋:相続税のことって、実際に相続が発生してから考え始める人が多いですよね。
林:その通りです。しかし、ご両親が元気なうちから税理士に相談を始めておくことをお勧めしています。
高橋:えっ、親が元気なうちからですか? 具体的にどんなメリットがあるのでしょうか。
両親にいつ、どうやって相続の話を切り出すか。難しい問題ですが早めに取り組むメリットもあるそうです
林:まず、早めに相談することで、生前贈与など、相続税を軽減できる対策を十分な時間をかけておこなえます。また、財産の把握や整理を計画的に進められるので、相続時のトラブルを防ぐことができます。
平田:それに、ご両親の意思を確認しながら進められるというのも大きなメリットになります。例えば、特定の資産を誰に相続させたいかなど、ご両親の希望を踏まえた相続計画を立てられます。
高橋:なるほど。でも、両親が元気なうちから相続の話をするのって、なんだか縁起でもない気がします。
林:そう感じる方も多いですね。でも、むしろ「ご両親のために」という視点で考えると良いのではないでしょうか。ご両親の財産を適切に管理し、おふたりの意思を尊重した相続を実現するための準備だととらえれば、前向きに取り組めると思います。
平田:知人やご近所の方で相続を経験した人の話を例に出すのがいいかもしれません。「○○さんの家族が大変だったらしいよ」というように。
高橋:私の場合なら「芸能人の相続」といったニュースを見たときに、さりげなく「パパ、こういうの、大変そうだね」と切り出すのもいいかもしれません。
林:それはいい方法ですね。また、エンディングノートを一緒に書いてみるのはどうですか? 財産の話だけでなく、ご両親の人生や思い出を聞くきっかけにもなります。
高橋:お金の話だけではなく、人生の話を聞けるのはいいですね。父の若い頃の苦労話なども、あらためて聞いてみたいです。
相続の問題はだれに相談すればいいの?
税理士は「相続税の計算や申告を担当する専門家です」
高橋:相続のことは誰に相談すればいいのでしょうか。税理士さん以外にも司法書士さんや弁護士さんなどがいますよね。
平田:相続に関しては、主に税理士、司法書士、弁護士などの士業が関わります。税理士は相続税の計算や申告を、司法書士は不動産の名義変更などの登記を担当し、弁護士は相続問題でトラブルが生じた場合などに相談することが多いです。
高橋:父の個人事務所には税理士さんがいるのですが、相続のことは別の税理士さんにお願いした方がいいのでしょうか。
平田:まずは、普段お付き合いのある税理士さんに相談してみるのがいいでしょう。もし相続税に関して専門的なアドバイスが必要だと判断されれば、その税理士さんから専門の税理士を紹介してもらうこともできます。
高橋:税理士さんとの付き合いがない人はどうすればよいですか?
林:銀行や不動産会社が開催する相続セミナーに参加するのも一つの方法ですね。こういった形で税理士とつながりを持つこともできます。弊社でも定期的に相続関連のセミナーを開催しており、私も定期的にセミナーでお客さまからの相談を受けています。
相続で「得する」「損する」ってどういうこと
相続で「損をしない」ために、複数の税理士に相談するのも選択肢のひとつ
高橋:相続で「得する」とか「損する」とよく聞きますが、これはどういう意味なのでしょうか?
林:主に相続税の節税対策のことを指します。例えば、相続財産の評価を適切におこなうことで、相続税を抑えられる場合があります。また、生前に贈与、特に令和6(2024)年度からは相続時精算課税贈与制度を活用することで、将来的な相続税の負担を軽減できることがあります。
高橋:具体的にはどれくらい違いが出るのですか。
林:ケース・バイ・ケースですが、例えば土地の評価方法で、別の税理士さんが計算した評価額より私たちが計算した評価額が、2億円低く算出されたケースがありました。
高橋:えー!そんなに違うんですか?どうしてそんなに差が出たのでしょう?
林:このケースは、それぞれの税理士が相続専門で、相続に必要な知識を持っていたか、ということで差が生じた例です。評価方法の違いや特例適用の有無で、実際には多めの相続税を支払ってしまっても、税務署は多めですからお返ししますよ、とは言ってくれません。だからこそ、相続税申告に関するご相談、ご依頼は、相続専門税理士を選んでいただきたいですね。
高橋:お医者様と同じで、税理士の先生にも専門分野があるということですか?
林: はい、そのとおりです。特に財産が多い方の場合は、相続専門の税理士にご相談されることをお勧めします。相談された税理士が相続専門の税理士かどうかわからない場合は、セカンドオピニオンとして複数の税理士に相談するのも選択肢のひとつですね。
税理士に相談する際のポイントとタイミングを教えて
相続を考え始めるタイミングは、「早ければ早いほうがいい」
高橋:税理士さんに相続のことをお願いするときの注意点やポイントを教えてください。
平田:まず、その税理士にどれだけ相続の経験があるかを確認することが重要です。事務所に相続専門の部門があるかどうかも一つの目安になります。また、生前の相続対策のコンサルティングや遺言のアドバイスなど、トータルでサポートできる体制があるかどうかもチェックポイントです。
私が所属するOAG税理士法人では、ちょうど30年ほど前に相続専門のチームを立ち上げ、以降多くの相続案件に関わってきました。専門チームを長年に渡り運営してきたことで、相続に関するノウハウや知識、経験が豊富に蓄積され、弊社がお客さまに選んでいただける強みになっていると感じています。
高橋:トータルでサポートと言いますと?
林:例えば、二次相続を見据えた提案であるかなどです。両親と子という家族で考えた場合、仮に最初に父親が亡くなり、その遺産を母親と子が相続することを一次相続、次に母親が亡くなり、その遺産を子が相続することを二次相続と呼びます。
ただ、一次相続で子に渡すのか、いったん母親が受け取り二次相続で渡すのか、という渡し方の違いで、子が親世代の財産を引き継ぐという結果は同じでも、相続税の合計額が変わることがあります。相続専門の税理士は個々のお客さまの背景をふまえて、トータル的なアドバイスをします。
高橋:そんなことがあるんですね!専門の先生に、先の先を見据えた相談するとなると、相続について考え始めるタイミングも肝心ですね。いつがいいのでしょうか。
林:早ければ早いほどよいといえます。具体的には、ご両親が60代後半から70代に入る頃から意識し始めるのが一般的です。ただし、自分自身のライフプランニングの中で相続のことを考えるなら、ご自身が30代後半から40代くらいから少しずつ考え始めるのもいいかもしれません。
高橋:私は 43歳になるのですが、今くらいから考え始めるのがちょうどよさそうですね。
平田:そうですね。特に、お子さんの教育資金やご自身の老後の資金計画なども含めて、家族全体の資産設計を考えるよいタイミングだと思います。
高橋:なるほど。私も今日の対談をきっかけに、両親としっかり話し合ってみようと思います。本当にありがとうございました。
林・平田:こちらこそありがとうございました。相続の話は難しく感じるかもしれませんが、少しずつ準備を進めていくことが大切です。今日お話ししたことが、皆さんの相続対策の第一歩になれば幸いです。
【OAG税理士法人】
OAG税理士法人は、1988年創業、東京都千代田区市ヶ谷に本社を構える税理士法人。個人の相続に関する税務業務を主力サービスの一つとする。相続税申告の実績は累計で1万件を超え、業界トップクラスのノウハウと実績を誇る。近年では電話やメールからの相続税申告相談予約を開始し、より幅広くお客さまのニーズに応えられるよう活動を展開している。
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