亡くなった人が負う損害賠償を相続放棄する 支払いを免れないケースや注意点を解説
亡くなった人が損害賠償債務を負担していた場合、相続放棄によって支払いを免れるのでしょうか?損害賠償金も相続放棄すれば支払いを免れますが、その際にはいくつか注意しなければならないポイントがあります。今回は損害賠償債務がある場合に相続放棄する方法やリスク、相続放棄をしても責任を免れないケースを解説します。相続人が交通事故を起こしたり自殺死したりして損害賠償債務を相続してしまった場合についても弁護士が解説します。
亡くなった人が損害賠償債務を負担していた場合、相続放棄によって支払いを免れるのでしょうか?損害賠償金も相続放棄すれば支払いを免れますが、その際にはいくつか注意しなければならないポイントがあります。今回は損害賠償債務がある場合に相続放棄する方法やリスク、相続放棄をしても責任を免れないケースを解説します。相続人が交通事故を起こしたり自殺死したりして損害賠償債務を相続してしまった場合についても弁護士が解説します。
目次
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損害賠償債務も、相続放棄の対象となります。
損害賠償債務とは、法律や契約に違反して、他人の身体や財産などに損害を与えたときに、与えた損害分の金銭を被害者に払わなければならない義務のことです。借りていたものを誤って壊してしまった時の修理代や、他人を暴行してけがをさせてしまったときの医療費なども損害賠償債務の一つです。
相続では、亡くなった方(被相続人)のプラスの財産もマイナスも財産(債務)も、基本的にすべて相続人が引き継ぎます。
そのため、損害賠償債務も相続の対象となり、相続人が損害を賠償しなければいけません。例えば、運転ミスで交通事故を起こして被害者にけがをさせてしまったが、その事故で運転手が亡くなった場合、被害者の治療費や慰謝料などの損害賠償債務は、運転手の相続人が引き継ぎます。マンションの賃貸物件で自殺したために、その後賃貸物件を貸すことができず賃料が入らなくなってしまったというような場合も、その相続人が損害賠償債務を引き継ぐことになります。
相続放棄とは、相続によって被相続人の財産を引き継ぐことを拒否することです。
相続放棄をすることで、損害賠償債務の支払いを免れますが、プラスの財産も引き継ぐことができなくなってしまいます。
相続放棄は、家庭裁判所へ相続放棄申述書や戸籍などの必要書類を提出する必要があります。裁判所が提出書類を確認して、相続放棄の申述を受理すれば、相続放棄ができたことになります。
相続放棄には、放棄できる期間に制限があることは要注意です。
相続放棄は、①被相続人が亡くなったこと、②自分自身が相続人であること、を知ったときから3カ月以内にしなければならず、この期間を「熟慮期間」といいます。熟慮期間内に相続放棄をしなければ、原則として財産を相続することを承認したことになります。
例えば、父親が亡くなり、子が相続人であるときは、子は父親が亡くなったことを知ったときから3カ月以内に相続放棄をする必要があります。子が相続放棄をしたことで、次順位の祖父母、あるいはさらに次順位の兄弟姉妹が相続人になった場合は、これらの相続人は、父親が亡くなったことだけでなく、子が相続放棄をしたこと知った時から3カ月以内に相続放棄をする必要があります。
3カ月以内に必要な調査が完了せず、被相続人の財産の内容が分からないなどの理由があれば、家庭裁判所に熟慮期間を延ばすよう申し立てることができます。裁判所が申立てた内容を認めれば、熟慮期間が延長され、延長された期間でも足りなければさらに再延長を申し立てることもできます。
熟慮期間を過ぎても、特別な事情があれば、相続放棄ができる場合もあります。
例えば、被相続人と疎遠で、損害賠償債務があることを知らなかった場合です。被相続人の遺産の有無や内容を誤解していて、誤解することもやむを得ないケースであれば、財産の有無・内容を認識したときから3カ月以内であれば、相続放棄が認められる可能性があります。
ただし、特別な事情があるかどうかは裁判所が個別に判断するもので、必ずしも相続放棄が認められるわけではないので、注意しましょう。
相続放棄ができず、多額の損害を賠償する義務を負ったという場合は、自己破産をして支払いを免れる方法もあります。
ただし、自己破産をしても、故意にあるいは重大な落ち度があって、人の生命や身体に損害を与えた場合の損害賠償債務は、自己破産をしても免れることはできません。
相続放棄は、あくまで被相続人の財産を引き継がないことができる、というものです。
そのため、相続人自身が損害賠償債務を負う場合には、相続放棄をしても支払いを免れることはできません。例えば、連帯保証人になっていた場合や、未成年や高齢者の監督者の場合、相続人自身の責任として損害賠償の責任を負う可能性があります。
過去の有名な裁判例では、認知症だった夫が線路に立ち入って列車と衝突してしまい、鉄道会社に損害を与えたケースで、鉄道会社が妻や長男に対して、夫の監督者としての責任を追及する訴訟を起こしました。第一審と控訴審では、鉄道会社側の請求を一部認め、妻の監督者としての責任を認めたのですが、最高裁では判断が覆り、鉄道会社の請求は認めませんでした(最高裁第三小法廷平成28年3月1日判決)。結果的に、相続人の監督者としての責任は免れましたが、第一審・控訴審・最高裁でも判断が異なる部分もあるため、相続人自身の責任が認められるケースもある、ということには注意が必要です。
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相続の相談が出来る弁護士を探すでは、実際に判断に迷ったときに考えるべき判断基準を見ていきましょう。
まずは、損害賠償額を遺産から払えるかがポイントです。
損害賠償を遺産から払えれば、支払った金額を差し引いてもプラスの財産を引き継ぐことができるので、相続放棄をする必要はないでしょう。
遺産から賠償する金額を払えるか疑わしい場合でも、自宅など遺産の中にどうしても手放したくない財産がある場合も、相続放棄をしない選択肢を考えるべきでしょう。相続放棄をしてしまえば、そのような財産も引き継ぐことができなくなってしまいます。
ただし、残したい遺産があっても、引き継ぐ損害賠償債務が高額であれば、遺産を引き継ぐことを諦め、相続放棄を選択した方が無難です。
なお、賠償する金額がはっきりしない場合は、限定承認という選択肢もあります。限定承認をすれば、遺産から債務を支払っても財産が残れば引き継ぐことができ、財産が足りず債務が残った場合でも残った債務を支払う責任を負いません。プラスがあれば財産を引き継げる一方、マイナスがあっても多額の債務を背負うリスクを避けることができます。
なお、限定承認は相続人全員で行う必要があるので、賛同しない相続人がいる場合はこの方法をとることはできません。
損害賠償債務も相続の対象になり、場合によっては高額な賠償金を支払う義務を引き継いでしまう可能性があります。熟慮期間という限られた期間で判断する必要もあるため、もし相続放棄をするべきか迷ったときには、すぐに弁護士に相談して、対応方法を検討するようにしましょう。
(記事は2021年7月1日時点の情報に基づいています)
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