「相続させる」という遺言を放棄できる? 「遺贈」なら放棄方法が異なるので要注意
相続させる遺言があっても、相続放棄は可能です。ただし、遺言内容が「相続」なのか「遺贈」なのか、対象が「特定物」なのか「包括的な指定」なのかによって放棄の方法が変わってきます。まずは遺言の内容を正しく理解しなければなりません。弁護士が相続と遺贈の違いや、それぞれの放棄方法などを解説します。
相続させる遺言があっても、相続放棄は可能です。ただし、遺言内容が「相続」なのか「遺贈」なのか、対象が「特定物」なのか「包括的な指定」なのかによって放棄の方法が変わってきます。まずは遺言の内容を正しく理解しなければなりません。弁護士が相続と遺贈の違いや、それぞれの放棄方法などを解説します。
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「相続させる」と書かれた遺言書があっても、相続人が財産を取得することを望まなければ相続放棄することができます。
たとえば、①「長男には甲土地を、長女には乙銀行の預金を相続させる」、②「長男と長女に遺産を2分の1ずつ相続させる」というような遺言書が残されていることは少なくありません。しかし、何らかの事情で遺産を承継したくないという方もいます。そのような場合は、相続放棄をすることができます。すなわち、相続させる遺言があったとしても、相続放棄をすることに支障はありません。
ちなみに、上記では、①と②の両ケースを合わせて「相続させる遺言」と呼びました。しかし、「特定の遺産を特定の相続人に相続させる内容の遺言」(①のような遺言)のみを指して「相続させる遺言」と呼ぶことも多いです。解説などをご覧になる際は、どちらの意味で使っているのか、注意して読むと良いでしょう。なお、近時の相続法改正によって、①のような遺言を「特定財産承継遺言」と呼ぶようになりました。
遺言書のなかには、前で述べたような「相続させる」と書かれている遺言書以外に「遺贈する」と書かれている遺言書もあります。
そもそも「相続」と「遺贈」は何が違うのでしょうか。いずれに該当するかによって放棄の方法が変わってきますので、違いを理解しておきましょう。
「相続」とは、人の死亡によってその人の財産を他人が包括的に承継することをいいます。財産を包括的に承継する他人を相続人と呼び、相続人となれる人は民法で定められています。配偶者は常に相続人となり、これに加えて子が第1順位、直系尊属(親が祖父母)が第2順位、兄弟姉妹が第3順位で相続人になります。先の順位の人がいれば、あとの順位の人は相続人になりません。
遺言により遺言者の財産を他人に贈与することを「遺贈」といいます。遺贈を受ける他人を受遺者(じゅいしゃ)と呼びます。相続人のみならず、相続人以外の人も受遺者にすることができます。つまり、子や祖父母、兄弟姉妹ではない人も遺贈を受けることができるということです。
上記のとおり、相続を受けることができるのは相続人に限られるのに対し、遺贈を受けることができるのは相続人に限られません。そのため、相続人ではない人に対して、財産を「相続」させることはできません。あくまでも「遺贈」することができるだけです。
これに対して、相続人に対しては、財産を「相続」させることも「遺贈」することもできます。そのため、相続人以外が財産を取得する場合は「遺贈」、相続人が財産を取得する場合は「相続」と「遺贈」のいずれも考えられます。いずれであるかは、遺言書の記載から判断することになります。
「相続させる遺言」(特定財産承継遺言)がなされた場合、その相続人は、この遺言による利益を放棄することができるのでしょうか。
たとえば、長男、次男及び長女が相続人のケースで、農地、現金及び預貯金といった遺産のうち、農地を長男に相続させる遺言がなされたとします。このケースで、長男が「農地は自宅から遠方にあって維持管理が困難だから相続したくない。農地を含むすべての遺産について、法定相続分(3分の1)に従って遺産分割協議をして誰が何を取得するかを決めたい。」と希望した場合、認められるでしょうか。
このようなケースで、ある裁判例(東京高裁決定平成21年12月18日)では、長男に相続させると遺言がされた不動産は、原則として、遺産分割の対象にならないと判断しました。すなわち、上記のケースでいえば、長男は農地を相続するしかなく、残りの遺産についてのみ、遺産分割協議をして取得分を決めることになります。具体的にいえば、農地以外の遺産が現金や預貯金のみであれば、農地の取得が特別受益に該当するかどうかにもよりますが、基本的には次男や長女が農地の価値に相当する金銭を取得し、その残りの遺産を3分の1ずつ取得する形になるでしょう。
遺言の利益を放棄することはできませんが、相続自体を放棄(相続放棄)することはできます。上記のケースでいえば、どうしても農地を取得したくない場合は、相続放棄をすることで取得を回避できます。では、相続放棄をするためには、どのように手続きをしたら良いのでしょうか。
相続放棄の手続きは、被相続人(亡くなった人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出することによって行います。申述人(放棄する人)が誰かによって必要書類が変わりますが、基本的には下記の3点が必要となります。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内にしなければなりませんので、注意が必要です。申立書の書式や費用、必要書類の一覧は、裁判所のホームページで確認できます。
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相続の相談が出来る弁護士を探す被相続人から遺贈を受けたとしても、他の相続人との関係などから、受遺者が遺贈を辞退したいという場合もあるでしょう。このような場合、受遺者は遺贈を放棄することができます。遺贈を放棄する方法については、特定遺贈か、包括遺贈かによって異なります。
特定の財産を対象とする遺贈が特定遺贈です。たとえば「○○銀行の預貯金を友人であるBに遺贈する」と書いている場合などが代表例です。
これに対し、一定の割合を示してある遺贈が包括遺贈です。たとえば「相続財産のうち5分の1を甥であるAに遺贈する」と書かれている場合などが代表例です。
特定遺贈を放棄したい場合は、相続人または遺言執行者に対する意思表示によって行います。のちに紛争にならないように、特定遺贈を放棄する意思は内容証明郵便で伝えるのが無難でしょう。また、受遺者はいつでも遺贈を放棄することができ、その時期に制限はありません(民法第986条1項)。
ただし、受遺者が遺贈の放棄をするかを明らかにしない場合、相続人は、受遺者に対して、相当の期間を定めて、遺贈の承認か放棄を行うことを催告することができます。この期間内に受遺者が返答しない場合には、遺贈を承認したものとみなされます(民法第987条)。
包括遺贈を放棄したい際は、相続放棄と同様の方法によって放棄をします。具体的には、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して遺贈放棄の申述書を提出することによって行います(民法第938条・第915条)。
これまで述べてきたとおり、相続させる遺言なのか、あるいは遺贈なのかによって、放棄する方法が変わってきます。相続させる遺言や包括遺贈の場合は、相続の開始があったことを知ったときから3カ月という期限が決まっており、それを過ぎてしまうと、放棄ができなくなってしまいます。自己判断で対応すると間違いが生じる可能性がありますので、弁護士に相談するようにしましょう。
(記事は2021年4月1日時点の情報に基づいています)
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