目次

  1. 1. 贈与が成立するには「あげる」と「もらう」という意思疎通が必要
  2. 2. 「名義預金」は相続税の課税対象になる

「1年間に110万円までの贈与には税金がかからないんですよね?」

――そう念を押されるのはSさんです。Sさんには、8歳と10歳の2人のお孫さんがいて、お二人の名義の預金通帳に毎年110万円ずつ積み立てをしているのだそうです。 「今お金をあげても無駄遣いされそうなので、孫たちが大学に入学した時にでも渡してやろうかと思うんですよ」とうれしそうにおっしゃいます。

贈与税は1年間にもらった財産の合計額にかかる税金です。ただし、年間110万円までは非課税となり、税金がかかりません。Sさんもそのあたりは心得て、積み立てしています。

でもSさん、目を細めている場合ではありません。Sさんがしていることは、実は「贈与」ではありません。生前贈与の中でよくある間違いの一つが、このような「あげたつもり贈与」です。

贈与とは契約です。契約なんていわれると、むずかしそうな感じがしますが、簡単にいえば、契約が成立するには「あげる人ともらう人の意思疎通が必要」ということです。贈与の場合、必要なのは「意思疎通」だけではありません。実際に財産をあげることが必要です。あげるということは、もらった側が自由にしていいということです。つまり、Sさんが「孫に内緒でそっと積み立て」をしていても、もらう側のお孫さんにしてみれば、そのことを知らされていないのですから、当然「もらう」という意思がありませんし、実際にもらってもいない。だから「贈与ではない」ということになるのです。

では、生まれたばかりの赤ん坊は「もらう」なんてわからないから、贈与はできないということか? というと、そんなことはありません。「おぎゃあ」と生まれたばかりの赤ん坊に対しても、贈与はできます。その場合は、両親などの親権者が法定代理人となって贈与に同意し、実際に贈与された財産を管理してあげればいいのです。

このような場合は、のちのち本当に贈与があったかどうかを証明するために、次のような贈与契約書を作成しておくのも有効です。

ちなみに、Sさんの「あげたつもり預金」を孫が大学生になったときに、渡したら・・・これは、実際渡したときにその残高を一度に贈与したことになります。かりに、1800万円たまっていた場合、595万円の贈与税になります!!こんな高い税金を取られるなんて、びっくりですよね・・

贈与契約書の作成例
贈与契約書の作成例

一方、Sさんが仮に「あげたつもり」でいた預金を渡さないまま亡くなってしまった場合、相続の現場では「名義預金」という扱いになります。つまり、たとえ名義がお孫さんであっても、実際はSさんの預金として扱われるのです。せっかく、贈与税の非課税枠を使った(つもりで)節税してきたはずなのに……。そんなことになれば、せっかくの努力(?)も水の泡ですよね。

名義預金でなくても、贈与があったかどうかが問題になるのは、往々にして相続が発生した後です。その時には、贈与した側の人はもうこの世にいないわけなので、「これはおじいちゃんにもらったものだ」と言っても信用してもらえない可能性もあるのです。

そのような事態を避けるには、あらかじめ「生前贈与があった」ということを証明できるようにしておく必要があります。

もらう側が普段使っている通帳に記録する
現預金の贈与であれば、通帳を通して履歴を残しておきましょう。できれば、贈与専用通帳のようなものよりも、もらう側が通常利用しているような通帳であれば、疑われにくいと言えます。

贈与契約書を作成する
また、先ほど紹介した贈与契約書も有効です。契約書には、「あげた人」「もらった人」の名前と「何をいつ贈与したのか」ということを記載しておきましょう。契約書 には日付も忘れずに書いておいてください。日付と署名は手書きで押印をしておけば、あとから「この契約書はニセモノでは!?」などと疑われることもないでしょう。

契約書は、どうしても作らなければならないわけではありませんが、のちのち「本当に贈与があったのか?」と疑われそうな場合(たとえば通帳を通さずに現金を贈与した場合など、他に贈与をしたということが証明しにくいなど)には、作成しておいた方がいいでしょう。

さらに、これは当然のことですが、110万円の非課税枠を超える場合はちゃんと贈与税の申告をする。そして何よりも、実際に財産を渡すことが重要です。せっかく行う生前贈与ですから、正しく、そして後々疑われることのないよう行っていただきたいと思います。

(記事は2020年10月1日現在の情報に基づきます)