目次

  1. 1. 相続放棄とは
  2. 2. 相続放棄の申述の受理前は取下げ可能
  3. 3. 相続放棄は撤回できない、取消しはできることがある
    1. 3-1. 「撤回」と「取消し」の違い
  4. 4. 相続放棄の取消しが認められた事例
    1. 4-1. 未成年者など法律行為に制限のある人が単独で相続放棄手続をとった場合
    2. 4-2. 「錯誤」により相続放棄した場合
    3. 4-3. 「詐欺又は強迫」により相続放棄した場合
  5. 5. 相続放棄取消しの手続方法と期限
    1. 5-1. 相続放棄取消しの期限
    2. 5-2. 相続放棄取消しの手続と流れ
  6. 6. 相続放棄が無効になる場合
  7. 7. まとめ

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相続放棄とは、相続開始により生じた相続の効果を、全面的に消滅させる行為です。これにより、相続放棄をした人は、はじめから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。亡くなった人(被相続人)の負債を承継することがなくなる一方、すべてのプラスの資産についても承継できないこととなります。

相続の開始があったことを知った時から3か月以内(民法915条1項)に、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に対して、相続放棄の申述書等の必要書類を提出して手続します。申述書の書式は、裁判所のホームページに掲載されています。

相続放棄の申述が受理される前であれば、申述の受理申立を取り下げることができます(家事事件手続法82条1項)。

一度受理された相続放棄は、撤回することができません(民法919条1項、最判昭和37年5月29日民集16巻5号1204頁)。ただし、例外的に取消しは認められています。

「撤回」は、相続放棄の申述が受理された後で、後から相続放棄の効力をなくしたいというような場合です。

例えば、以下のようなケースは撤回にあたり、認められません。
・相続手続が面倒で相続放棄したが、気が変わった

「取消し」は、相続放棄の申述が受理された時点ですでに問題が生じていて、本来は受理されるべきではなかったが受理されてしまったので、相続放棄をした時点にさかのぼって効力をなくしたいというような場合になります。取消しは、ケースによっては認められることがあります。

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民法上、以下の理由がある場合などに取消しが認められています(民法919条2項)。

未成年者(法定代理人である親権者の同意なし)、成年被後見人、被保佐人(保佐人の同意等なし)が相続放棄手続を単独で行った場合は、取消しができる場合があります。

実際にはそういった事実はないにもかかわらず、「被相続人には見るべき資産は特にない」「被相続人に多額の借金がある」といったような誤解(錯誤)があった場合(高松高判平成2年3月29日判時1359号73頁、福岡高判平成10年8月26日判時1698号83頁)に相続放棄の取消しが認められた事例があります。

このような錯誤があったから必ず相続放棄の無効が認められるわけではありません。以下のような事情も考慮されます。

  • 誤解した事情が相続放棄申述書に記載されるなどして表示されていたこと
  • 当該錯誤が相続放棄を取り消しうるほどの重大な影響をもたらしたこと
  • 相続放棄をした人が十分な調査を行っていたなど重大な過失がなかったこと

これらの事情を立証することは難しく、そもそも錯誤取消が認められた事例においても微妙な難しい判断がなされています。このため、錯誤による取消しを認めてもらうには高いハードルがあるといえます。

相続人の1人が財産を独占しようと考え、他の相続人に対し、「相続放棄をした場合には自立しうるだけの財産を必ず分与する」などと約束した上で相続放棄をさせた場合(東京高決昭和27年7月22日家庭裁判月報4巻8号95頁)に「詐欺」を理由として、相続放棄の取消しを認めたケースがあります。

また、実在する債務がないにもかかわらず、「相続放棄をしないと莫大な借金を負う」などと騙して相続放棄をさせた事案につき、取消しができる場合があります。

「相続放棄をしない限り家に火をつける」など、相続人に害悪を示して恐怖を生じさせたうえで相続放棄をさせた場合が「強迫」による相続放棄として、取り消すことができる場合があります。

相続放棄の取消手続には期限があり、期限内に必要書類を提出しなければいけません。

相続放棄取消しの期限は、次のいずれかになります(民法919条3項)。

  • 追認をすることができる時から6カ月以内
  • 相続放棄の時から10年以内

追認することができる時とは、取消の原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消しをできることを知った時とされています。例えば、詐欺を理由として取消す場合には、詐欺であることが分かり(騙されていた状態から脱し、取消しの原因となっていた状態が消滅した)、取消しをできることを知った時ということになります。

上記の期間内に「相続放棄取消申述書」と必要書類を添付し、相続放棄の申述をした家庭裁判所に提出します。

必要書類の提出の際には、取消原因があったことの証拠等の提出も行うこととなりますが、そのような証拠が残っていることは一般的に稀かと思います。また、何らかの証拠があったとしても、相続放棄を行う意思決定過程において、取り消しが認められる程度の重大な影響があったと立証することはかなり高いハードルだといえるでしょう。

撤回や取消しと異なり、相続放棄そのものが有効ではない、つまり無効となるケースもあります。

例えば、知らない間に勝手に書類が偽造されるなどして相続放棄が申述され受理されてしまっていたような場合、その相続放棄は無効とされた裁判例があります。

【関連記事】相続放棄が無効になる事例と取り消しとの違いは 無効を主張されたときの対処方法も解説

相続放棄の取消しが認められる件数自体は少なく、難しい手続であるといえるかと思います。だからこそ、相続放棄を行う際は、財産の調査や相続人との話し合いを綿密に行うなど、慎重に決定してください。

相続放棄をするか否か迷う場合やいったん相続放棄をしてしまい、以上のような取消原因があるためにどうしても納得がいかず、相続放棄の取消しを行いたい場合には、弁護士に相談されることをお勧めします。

(記事は2022年10月1日時点の情報に基づいています)

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