目次

  1. 1. 金融機関の家族信託系サービスとは何か
    1. 1-1. 家族信託で契約した財産(金銭)を預けるサービス
  2. 2. 「家族信託系商品」のメリット
    1. 2-1. 【メリット】相続が発生したらすぐに資金を受け取れる
    2. 2-2. 【デメリット】金銭しか預けることができない
  3. 3. 家族信託で金銭を管理するには口座が必要
    1. 3-1. 家族信託で使える口座は個人口座と信託口口座
  4. 4. まとめ:まずは家族信託の検討を

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金融機関が提供する家族信託系サービスは、金融機関に金銭を預けておき、一定の条件が満たされれば指定の方法で払い戻しができる仕組みが大半です。

委託者、受託者、受益者の3者からなる家族信託は、委託者が受託者に財産の管理や処分を任せ、そこから発生した利益を受益者に与えることにより、財産の柔軟な管理や承継を可能にします。

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一方で、銀行などの金融機関が提供している「家族信託」と名の付く商品は、一般的な「家族信託」とは似て非なるものです。ここでは、一般的な家族信託と、銀行などの商品としての「家族信託」の違いについて、大きく異なるポイントにしぼって解説します。

違い(1)信託できる財産の種類
家族信託では、信託できる財産に制限はありません。これに対して、銀行などの家族信託系サービスでは原則として金銭のみです。

違い(2)信託契約の内容設計の自由度
家族信託は内容の自由度が高く、財産を信託する人の要望に合わせて設計しやすい利点があります。対して、銀行などによる家族信託系サービスの場合、信託内容のほとんどの部分があらかじめ決まっています。

違い(3)目的
家族信託は、相続対策、認知症対策、遺言代用、親なき後問題への対策、遺族の生活費確保など、さまざまな目的のために利用できます。一方、認知症になった本人の生活のために指定した家族が出金できることや、遺族の生活費や葬儀費用の捻出を主な目的としているのが、銀行などの家族信託系サービスです。

違い(4)費用
家族信託に専門家が関与する場合、専門家への数十万円以上の報酬支払いが一般的です。専門家に依頼しない場合は、税金や公正証書作成手数料などの実費がかかるのみです。

銀行などの家族信託系サービスの費用は、サービスごとにさまざまです。預金に近い仕組みの信託なら、費用がほとんどかからないものもあります。また、元本保証を受けられるサービスも多数あります。

みずほ信託銀行「安心の贈りもの」

みずほ信託銀行が受託者となり、委託者の金銭を預かる仕組みの商品です。

委託者は、自分が死亡した際に金銭を渡したい人をあらかじめ指定しておきます。そして委託者が死亡すると、指定された人に銀行から金銭が渡ります。

通常の相続の場合は、たとえ相続人であっても、遺産分割協議などの手続き後でなければ死亡した人の預金を勝手に引き出すことは原則としてできません。みずほ信託銀行の「安心の贈りもの」なら、シンプルな書類を準備するだけで、指定された人はすぐに金銭を受け取れます。

死亡後の金銭の渡し方も次の2パターンから選べます。
パターン(1)一括で渡す
パターン(2)毎月一定額を渡す
葬儀費用など、まとまった金銭が必要になると予想できるならパターン(1)を、遺族の生活費を確保しておきたいならパターン(2)を選ぶといったように、目的にあわせて利用できるのも強みです。

オリックス銀行「オリックス銀行家族信託サポートサービス」

その名のとおりサポートに特化した商品で、オリックス銀行は受託者にならず、委託者の家族が受託者になる本来の「家族信託」をつくりあげるためのサポートを提供しています。

家族信託は便利ですが複雑な部分が多く、専門知識なしにはスムーズな活用が難しい制度です。しかし同商品なら、委託者の目的に応じて「どのような内容の信託契約にすべきか」などの相談に銀行が親身に対応します。

委託者の希望によっては、銀行側から司法書士や税理士を紹介してくれるので、契約書作成や税務など専門分野のサポートも万全です。

三井住友銀行「家族リレー信託」

三井住友銀行が受託者となり、委託者の金銭の管理及び運用をおこなう商品です。「リレー」の名が表すとおり、金銭の受け取り方法に特徴があります。

まず、委託者が亡くなるまでの期間中は、委託者自身が第一の受益者となって定期的に銀行から金銭を受け取ります。そして委託者の死後は、あらかじめ指定しておいた人が第二受益者となって金銭を受け取る構造です。

第二受益者は、「留保金」を受け取る「留保金受取人」と、「残預金」を受け取る「残預金受取人」の2種類を指定できます。

留保金は、委託者の死後に一括で払い出しがされる金銭です。たとえば葬儀費用をまかなう目的などのために、金額はあらかじめ委託者が指定できます。

残預金は、信託財産から留保金を差し引いた残りの金銭です。残預金受取人に指定された人は、委託者の死後、定期的に金銭を受け取れます。「自分亡き後も、家族の生活を守りたい」と願う委託者にとっては安心の仕組みといえるでしょう。

三井住友信託銀行「安心サポート信託」

委託者の金銭を受託者である三井住友信託銀行が預かり、保全と管理をおこなう仕組みの商品です。

財産の散逸防止、生活費の安定的な確保、お孫さんへの学費支援などの多様な目的のために利用でき、自分で財産を管理するのが難しい人や、将来、認知症により財産が管理できなくなったときの備えが欲しい人などに、特におすすめです。

最低3000万円以上の金銭の信託が利用条件であるものの、信託銀行に預けている「安心感」は魅力です。生命保険信託型の商品も取り扱っていますが、2020年5月現在においては金銭信託型のみの新規申し込み受付となっています。

京葉銀行「家族信託」

京葉銀行は、千葉県やその隣接地域在住の人向けの家族信託サポートサービスを提供しています。家族が受託者となる家族信託契約を円滑に進めるために、京葉銀行が提供しているサービスは次のとおりです。

 (1)信託口口座の開設
 (2)信託契約に基づく融資
 (3)信託契約書作成など手続き面での支援

信託口口座を開設する金融機関選びは難航しやすいですが、当銀行なら、スムーズな開設が期待できます。また、家族信託の専門家のサポートもしっかり受けたいニーズに対応できる体制も魅力の一つです。

三菱UFJ信託銀行「家族安心信託」

三菱UFJ信託銀行が受託者となり、委託者の財産を保全・管理する仕組みの商品です。「家族安心信託」の名のとおり、委託者なき後の家族の生活を守ることを目的としています。

委託者の相続発生後、指定された家族は、三菱UFJ信託銀行から定期的に金銭を受け取れるため、財産の散逸や浪費を防ぎながら、安定した生活を送れます。

りそな銀行「介護・認知症対策信託 ~資産承継信託~」

りそな銀行が受託者となって委託者の財産を保全・管理する商品です。

委託者は財産を預ける際に、金銭の受け取り方法や受け取れる人を指定しておきます。委託者はもちろんのこと、指定された家族も本人に代わって金銭を受け取れる点が、当商品の大きな強みです。

たとえば、認知症の人の介護費用や入院費用が必要なときに、家族が認知症の人の口座から金銭を引き出せずに困るケースは多いです。と言うのも、認知症の人は原則として自分で金銭を引き出すことができず、本人に代わり家族が引き出すこともできません。

しかし資産承継信託を利用していれば、委託者が認知症になっても、指定された人が代わりに金銭を銀行から受け取ることができ、不自由が生じにくくなります。

さらに、あらかじめ指定されていた人であれば、委託者死亡後に残った信託財産をスムーズに受け取れる点も「資産承継信託」を利用するメリットの一つです。

ここまで各金融機関の商品を紹介してきましたが、銀行などの家族信託は家族信託に絶対必要なわけではありません。

家族信託系の商品は、金融機関ごとに特色があります。どの商品を選べば、「残された家族の生活を守る」「財産の安全な管理」などの目的を達成できるのかを、しっかりと比較検討しましょう。

また比較検討の際には、家族信託系商品のメリットとデメリットを理解し、利用すべきかを判断しましょう。

通常、相続がおきると、遺産分割協議などの手続きが終わるまでは死亡した人の口座から金銭を引き出せません。
遺産分割前に、相続人が死亡した人の口座から金銭を引き出せる制度もありますが、額が制限されているうえに手続きの内容も少々複雑です。

「相続が発生したら、相続人が必要な金銭をすぐに受け取れるようにしておきたい」場合、相続発生後にスピーディーな資金受け取りができる家族信託系の商品は使い勝手が良いといえます。

受取金額も委託者が生前に指定しておけるので、将来的に必要となる金額を設定しておけば、資金面で家族を悩ませずにすむでしょう。

家族信託系商品の大きなデメリットは、原則として金銭しか信託できない点です。たとえば居住用不動産などは家族信託系商品の対象外のため、別の手を講じておく必要があります。

それこそ信頼できる家族を受託者として、不動産などの管理や運用を任せる目的で家族信託を利用するのもよいでしょう。

また、家族信託系商品では、金融機関に信託できる金銭の最低額が設定されています。最低額以下の金銭について管理や保全、承継の悩みや希望がある場合は、やはり家族信託など別の手段の検討が必要です。

なお、家族信託について相談するなら金融機関よりも弁護士や司法書士、税理士などの専門家がおすすめです。

金融機関が専門家を紹介してくれることもありますが、始めから家族信託の経験が豊富な専門家に相談しておくとスピーディーに話が進みます。なお、専門家の力を借りる場合は、無料相談を除き、専門家報酬などの費用がかかるのが一般的です。

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受託者は、信託された財産と、受託者固有の財産を分けて管理しなければなりません。そのため、家族信託で受託者に金銭を信託する場合、信託された金銭を管理するための口座が必要です。

「信託された金銭のためには“信託口口座”を開設しなければならない」と耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか。「信託口口座」には理論上のメリットがありますが、実は必須ではありません。受託者固有の財産と分けて管理できるなら、受託者個人名義の口座でも足ります。

ここからは、受託者個人名義口座と信託口口座の概要や違いなどを解説します。

個人口座

金銭の家族信託で、信託口口座を開設するかはケース・バイ・ケースです。

信託口口座を開設しなくても、信託契約のなかで金融機関、支店、口座番号などを明確に特定しておけば、受託者個人の口座で金銭を管理できます。しかし、受託者個人名義の口座を使った家族信託には場合によっていくつかのリスクを負うため注意したいところです。

具体的なリスクの一つ目が「受託者の死亡で口座が凍結されること」です。
信託された金銭は受託者個人の財産ではないため、受託者の死亡で口座が凍結される事態は本来なら筋違いです。

しかし、受託者名義の口座にある金銭は、客観的にみると受託者個人の財産に他なりません。そのため、受託者死亡時には受託者の相続財産と判断され、相続人が確定するまでは口座が凍結されるというわけです。

二つ目のリスクは「口座には信託口口座のような倒産隔離機能がないこと」です。倒産隔離機能については、信託口口座とあわせて後述します。

信託口口座

信託口口座は、たとえば「委託者X 受託者Y 信託口」などの名称で開設されます。受託者死亡により凍結されないことや倒産隔離機能を備えていることが、受託者個人名義の口座にはない、信託口口座の理論上のメリットです。

メリットについて、少し詳しく説明しましょう。
原則として、委託者や受託者個人の債権者は、信託口口座の金銭について差し押さえなどの強制執行ができません。これを信託の倒産隔離機能といいます。

また、信託契約のなかで第一の受託者死亡後に受託者となる者を指定するなどしておけば、信託口口座は凍結されません。

以上のメリットを踏まえると、金銭を家族信託する場合は信託口口座の開設が安心だと思えます。しかし、2020年5月時点で、どの金融機関でも信託口口座を開設できるわけではありません。さらには、信託口口座であっても、倒産隔離機能や凍結回避などのメリットを備えていない実態もありえます。

また信託口口座の取り扱いについては銀行ごとに異なる部分も多いため、必ず事前に内容を確認しておきましょう。
専門家に家族信託の相談をするなら、信託口口座を開設する金融機関選びについても話し合っておきたいところです。

信託口口座を作るおおまかな流れは、次のとおりです。

1.金融機関と相談、内容の打ち合わせ
2.公正証書による契約書の作成
3.必要書類の準備
4.各種必要書類の提出
5.口座の開設

最初に金融機関に家族信託用の信託口口座を開設したいと申し出て、打ち合わせを始めます。

金融機関に信託契約の内容を確認してもらう手順は必須です。その際、信託契約の内容について金融機関から条件を指定されるかもしれません。信託口口座開設の条件などは金融機関によって異なるので、信託契約の内容検討に入る前に確かめておくことをおすすめします。
信託契約の契約書は、公正証書にしておきましょう。公証役場を訪ね、法の専門家である「公証人」の手を借りて公正証書を作成していきます。このとき、数万円程度の手数料がかかるのが一般的です。

続いて、信託口口座の開設のために各金融機関が求める書類などを準備します。必要書類なども金融機関によって異なるので、要確認です。

公正証書にした契約書とその他必要書類などの提出が終わったら、いよいよ信託口口座が開設されます。なお、受託者による管理と運用が始まるタイミングは、契約で定めた金銭が信託口口座に入金された時点です。

金銭はもちろんのこと、それ以外の財産についても柔軟な管理や承継を望むのであれば、家族信託の活用がおすすめです。

家族信託を利用するなら専門家へ相談し、金融機関選びを含む実際的な手続き面についてしっかりとしたサポートを受けましょう。

(記事は2020年6月1日現在の情報に基づきます)

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