15.「自分が死んだら妻に相続させて、妻が死んだら…」後継ぎ遺贈は可能?
高齢化や家族の多様化が進むなか、財産管理の手段として注目される「家族信託」。活用を訴える司法書士の宮田浩志さんが、後継ぎ遺贈型受益者連続信託について説明します。
高齢化や家族の多様化が進むなか、財産管理の手段として注目される「家族信託」。活用を訴える司法書士の宮田浩志さんが、後継ぎ遺贈型受益者連続信託について説明します。
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「自分が死んだら妻に全財産を相続させるが、妻が死んだら残った資産のうち自宅を長男に、自宅以外の財産を長女に承継させる」という“後継ぎ遺贈”の遺言は、民法上無効とされています。しかし、信託法91条(図表1-8)に規定する信託の仕組みを使うことで、二次相続以降の資産の承継先指定(この例では長男長女への承継)も可能になります。なぜできるのかを簡潔に説明すると、次のようになります。
民法には「所有権絶対の原則」(注4)があるため、自己が相続や贈与で取得した財産(所有権)については、自分しか次の承継先を指定できません。つまり、相続や贈与で受け取った者は、前所有者からの“想い”に束縛・制約されることなく、自由に消費も譲渡も可能です。いったん相手に財産が渡れば、それは、もはや前所有者の“想い”は届かない可能性があるのです。これが通常の相続や贈与が「点の資産承継」といわれるゆえんです。
(注4 )「所有権絶対の原則」とは、人は何人からも妨害を受けることなく自分の所有物を自由に使用・収益・処分できるという原則。
一方、信託は所有権という財産権を「信託受益権」という債権に転換する機能があります。債権は条件付・始期付・一身専属的指定など、いわば何でもありです。信託の権利転換機能を生かす形で、所有権絶対の原則の適用を排除し、委託者が何段階にも財産の受取人を指定する(指定された者は自分が生きている間だけ経済的利益を享受できるが、死亡したらその権利は消滅して相続人に引き継がないようにする)ことが可能になるのです。
つまり、信託は、相手に財産を渡した後も、自分の“想い”を及ぼすことができるのです。これがいわゆる「線の資産承継」といわれるゆえんです(図表1-7)。
受益者連続型信託については、何段階にも受益者を指定できるとはいえ、無制限にこの指定を許すことは、かえって将来の利害関係人を不当に拘束し、国民の経済活動を阻害しかねない等の理由で、信託が設定されたときから「30年」という期間制限を置いています(信託法91条)。
ただし、この「30年」の制限の内容は、設定から30年経過した時点で強制的に信託が終了するのではなく、30年経過後は、受益者の交代(受益権の取得)は1回限りで、30年経過後に新たに受益者となった者が死亡するまで存続するという制限です。ただし、信託終了後の残余財産の帰属先指定ができるので、実質的には、30年経過後においては2回分の受益者の交代まで指定できることになります。
次回の記事では、信託財産がいつどうやって課税されるか、その原則について解説します。
この記事は、「相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本」(近代セールス社)から転載しました。